その嘘ホント?


 今日こそは執務を行うと、政宗様は胸を張ってそう言った。そのはずだ。
 だから目の前の木陰で休んでいる政宗様の姿は見間違い、もしくは僕の見せた幻影に過ぎない。
 手に持っていた鍬を振り上げてその幻影をぶった切ろうとすると、スヤスヤと眠っていた政宗様の幻影が飛び起きた。
「どうせ寝込みを襲うなら、夜這いにしろよkitty?」
 一瞬のうちに僕の背後に回って首に護身用の短刀をつきつける政宗様は、例え寝起きでも口説き文句を忘れない伊達男だ。
 そんな伊達男が城の中とはいえ堂々と中庭で昼寝はどうなのだろう。
「今日は執務を行うのでは?」
 疑問を問いかければ政宗様はHa!と鼻で笑い飛ばしてから、短刀をしまいこんで僕を抱き締める。
「卯月の朔日は"April fool"って言ってな、嘘をついても許される日なんだぜ?」
 つまり執務を行うとは真っ赤な嘘だと、そう遠回しに告げられて僕は大きくため息をついた。この調子ではまた小十郎様の気苦労が増えるのだろう。
 僕は鍬を持ち直して自分を抱き締める相手を振り払う。
 これから小十郎様の畑を耕しに行くのだ。
「では、僕はこれで。」
 去ろうとする僕の腕を優しく政宗様が掴む。そしてそのまま、僕を再び腕の中に閉じ込めた。
「一緒に寝ようぜ、。いい小春日和だしな。」
「無理です。僕はこれから小十郎様の畑を耕し、新たな苗を植え、雑草を抜く仕事がありますから。」
 ただの農民だった僕を、畑に対する知識を買ってここに置いてくれた政宗様と小十郎様。
 その二人の期待に応える為にも、自分の仕事をこなすのは僕の義務だ。
 勿論それは政宗様も良く理解しているはずだというのに、僕を抱き締める腕の力はいっこうに弛む気配がない。それどころか更に腕はきつくなった。
「意地でも離さねぇ。そう言ったらどうする?」
「どうもこうも…大声出して小十郎様を呼びますが?」
 きっと叱られるでしょうねと笑顔を浮かべて首を捻り、後ろの政宗様を見つめてやれば苦虫を噛み潰したような顔をしている。
「…OK、OK。離しゃ良いんだろ。」
 暫くの沈黙の後に政宗様は僕を解放し、そして不貞腐れたように唇を尖らせてからまた木陰に横たわる。
 どうやら昼寝を続けるらしい。
「政宗様、執務はどうするおつもりですか?」
 僕が問いかけるとチラと目を開けてから、知った事かと言わんばかりに寝返りを打って背を向ける。
 完全に拗ねてしまった政宗様に内心ため息をついてから僕は小さく唇を開いた。
「自分の仕事をきちんとこなす方は素敵ですよね。小十郎様とか。」
 ピクリ、寝たはずの政宗様の肩が僅かに跳ねる。それを確認して僕は言葉を続けた。
「それに、僕は昼寝するよりも夜に眠る方が堅実的だと思いますから。…誘うんでしたら夜にどうぞ。」
 ガバっと音が聞こえるくらいに勢い良く政宗様が起き上がって僕を見据えた。不貞腐れた様子はもう消えている。
「Really?」
「嘘です。今日は嘘をついてもいい日だと伺いましたので。」
 即答する僕の言葉にがっくりと肩を落として睨みつける政宗様。
「でも、自分の仕事をきちんとこなす人が好きなのは事実ですよ?現時点では小十郎様が一番です。」
 そう言って鍬を担ぐと僕は小十郎様の畑へ足を向けた。それとほぼ同時、僕の後ろで政宗様が声をかけてくる。
「仕事、すりゃいいんだろ。」
 諦めが混ざったようなそんな声。僕はその言葉に頷いてから振り返った。
「そうですよ、Darling?」
 振り返り様に満面の笑み。政宗様がそれに弱いのは長い付き合いで理解している。
 その証拠に一瞬だけ動きを止めてからぶっきら棒に返事をする政宗様の耳が僅かに赤い。
「嘘でも、俺が一番じゃないなんて口にすんなよHoney。お前の為なら仕事だってやってやる。」
 照れ隠しに口説き文句はやはり伊達男。聞いてるこっちの方が恥ずかしくなっていく。
 政宗様は思い立ったが吉日というようにさっさと立ち上がって自分の部屋へと行ってしまった。
 僕はそれを見送ってから、さっきまで政宗様が寝転がっていた場所を見つめた。
 僕なんかの言葉に一喜一憂するなんてまるで普通の青年のような姿。その姿が目蓋に焼き付いて離れない、なんて。
 それはきっと、春の日差しの強さのせいに違いない。


 なんて、あからさまな嘘をついて、今日も僕は畑に向かう。