問い掛ければ、頷いていたはずの政宗の動きがピタリと止まる。まさかと思ってジッと見つめれば、どうやらそのまさかだったらしい。一気に輝いていたはずの表情が沈んでいった。
 それじゃあ意味が無いだろうがと言いたいのをグッと堪えて、俺は政宗の顔を覗き込む。
「サプライズも楽しいけどさ、一緒に企画考える方が楽しいだろ?…その方が一緒にいられる時間も増えるしさ。」
 困った時の必殺技。俺としてはどうして効果があるのか未だに理解できないが、僅かに首を引いての上目遣い。いつもは滅多に言わない甘えたような言葉もプラスすれば、政宗はコロッと俺の手の中に落ちてきた。
「OK、今度からはそうする。」
「ん、よろしい。」
 俺が頷けば政宗ははにかむような笑みを浮かべてシャンパンへと手を伸ばす。残った利き腕じゃ無い方の手を見つめてから俺はポケットを漁った。そこには、プレゼント用だと言うのすら恥ずかしくて結局ラッピングも何もされてないブレスレットが一つ。
 ちょっと前に政宗が欲しそうにしていたのを見ていたから、プレゼントはコレにしようと決めていたのだ。まぁ、政宗が欲しがるものなだけあってちょっと値段は張ったけど…な。
「悪かったな、場を崩しちまって。折角ここまでセッティングしてくれてたのにさ。」
 俺の謝罪の言葉に政宗はニッと笑みを浮かべてからシャンパンのグラスを置いた。気にするなというように僅かに首を横に振ってみせる。多分そう口にしたらギクシャクした雰囲気になってしまうかもしれないという政宗の配慮だろう。
 その代わりとして俺に掛けられた言葉は、違うものだった。
「満喫して貰えたか?」
 悪戯が成功した時の子供のような、ちょっとだけ邪気を孕んだ魅力的な笑み。俺は躊躇う事無く頷いてみせる。
「んじゃあそろそろ帰るか。」
 俺の答えに満足したのか政宗は椅子から立ち上がると俺のすぐ隣へ回り込んで、エスコートするように椅子を引いてくれる。俺はポケットに手を入れたままの状態で椅子から立ち上がった。
 勿論そんな不自然な状態を政宗が見過ごしたりなんかしない。すぐに俺の手へと意味有り気な視線を送ってきた。
「…あ、のさ。」
 声が掠れてしまうなんて、馬鹿げてるけど。でもやっぱりちょっとだけ不安で。
 ここまで完璧なデートプランに太刀打ちできるようなものじゃないって良くわかってるけど、でも、俺としての精一杯が伝わると良い。そう思いながら俺はポケットから手を出して政宗の腕を掴んだ。
 そして無言のまま政宗の左手にブレスレットをつける。恥ずかしくて顔をあげる事が出来ない。
「これ、やる。政宗、もう持ってるかもしれないけど、クリスマスプレゼント。」
 あぁ俺がもう少し政宗みたいにキザな台詞が言えたらとか、そんな事を考えるけど、そんな事逆立ちしたって言えやしない。飾り気もそっけもないプレゼントに、政宗がどんな反応を示すのかが恐くて俺は政宗の腕を見つめたままだ。
 はぁ、と小さくため息が上から降ってきた。呆れられたか?
 さっきあれだけ説教していたのにも拘らず、俺は一気に緊張して体を縮め込ませる。しかしそんな俺に降って来たのは優しい声だった。
「ばぁか、お前も出費してんじゃん。これ…高かっただろ?」
 自然に抱き寄せられて、俯いたままの耳へと吹き込まれた柔らかな低音。ゾワゾワした感覚が背筋を駆けるけど、それが何故か心地良い。
「政宗に比べたら、全然だろ。」
「比べんな。お前からしたらかなりの大金だろうが。」
 人の事言えないだろ馬鹿野郎、なんて、優しく言われても全然効き目なんて無い。嬉しそうに笑っているんだろう、時折聞こえるクスクスという喉で笑う声の方が俺の中へとゆっくり沁み込んできて。
 今なら、政宗の気持ちもちょっとならわかるかもしれないなんて、そう思った。


 政宗からのプレゼントは純銀製のネックレスだった。ずっしりした感触にオロオロする俺に、良く似合うとタイミングを計ったように声をかけてくる政宗。そう言われたら笑うしかできないじゃないか。
 本当に、政宗は俺の喜ばせ方を良く知ってる。
「あれ?エレベーター上行ってるぞ。」
 レストランの帰り、てっきり下りだと思って乗ったエレベータが上に登っていくのに気付いて慌てる俺に、政宗はニヤリと意地の悪い笑みを浮かべる。途端、俺の脳裏を走ったのは嫌な予感。
「まさか、政宗…」
「おいおい、まさかタダで帰れると思ってんのか?」
 ニヤニヤしたまま俺の目の前に鍵をチラつかせる政宗の顔は、それこそ凄く意地悪そうに歪んでいた。展望台レストランより上にある階と言ったら、この建物…五つ星ホテルの中でも限られた、俗に言うスイートくらいのもので。
 さっき聞かされた金額には間違いなく入っていなかったであろう宿泊費が一体幾らになるのか。わからない、わからないがここは叱るべきシーンだ。そう思って勢い良く吸い込んだ息は、怒鳴り声になる前に政宗の唇に吸い取られていってしまう。
 豪華なホテルの、外が見える大きな窓のエレベーターに、二人きり。ご丁寧に最上階までノンストップの直通だなんて、どんなドラマだよって突っ込みいれたくなるようなベタなシチュエーション。
 ああもうこの策士め!
「約束通り次からはちゃんと相談する。だから今日くらい甘えさせてくれよ、Honey。」
 ちょっとだけしおらしく、でも甘さに満ちた声で囁かれてしまえば俺に否を言う権利なんて残ってない。
「お前、わかってやってるんだろ。」
 シチュエーションとかムードとか雰囲気とか、そういうのに俺が弱いって事。
 問い掛ければ当たり前だろうと笑われて、カッと顔が熱くなる。そんな俺をからかうこともせず抱きしめる政宗に更に熱は上がるばかりだ。
 俺の脈拍もエレベーターも急上昇。チンと電子レンジみたいな軽快な音と共に目的地に辿り着いたら、さあ美味しく召し上がれ!なんて、そんなオチなんだろうな。きっと。
 全部全部政宗の思惑通り。腹が立ったから仕返しにと噛み付くように口付けてから吐き捨てるように言い放った。

「甘やかしてやるよ。……好きにしろ。」
 チンという軽い音、驚いて丸くなった瞳。さあ美味しく食べろよDarling?



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