そうだな、アンタはそういうタイプだ。
それを疎ましく思った事は無い。いつもクールに構えているくせに、拘る所だけは全力投球で。ロマンチストでキザな台詞を言っても許されるような男前。
でも、今日は別だ。
「Hey,何か不満か?」
窓の外はキラキラとデコレーションされたように輝くビル郡、その下を車のライトの川が流れている。地上何メーターか忘れたけど、随分前のお昼の番組で『五つ星ホテルの超絶景展望レストラン』なんて持て囃された場所の、窓際。しかも特別室と呼ばれる、他の客達とは別に設けられた謂わば個室だ。予約殺到!とかなんとかキャスターのお姉さん達が言ってたその場所に、俺は座っている。
料理は多分、超一流。でも格式張った感じはなくて、マナーに気をとられて味どころの騒ぎじゃ無い…なんてハプニング要素も皆無だ。メインディッシュの子羊のソテーってのが凄く旨くて、一緒に用意された赤ワインは癖が少なくて飲み安いのが用意されていたし。
デザートは洋梨のコンポートとジェラート。それにあわせて飲み物はシャンパンに変わって、食事の後のゆったりとした時間。文句なんて何処にもない。申し分ない贅沢なひと時だったと思ってる。
でも、でもだ。
「い…くら、かかってんだよ。コレ。」
少なくともこの場所をとるってだけでも大変なのに、料理はフルコース。挙句このレストランまではハイヤーのお迎え付き。足りない頭をフル稼働しても、金額が幾らかかったかなんて想像つかない。
とりあえずわかるのは、俺の一ヶ月の給料全部飛んで行っちゃうんだろうなって事くらいだ。
「そんなの聞くんじゃねぇ、moodが壊れる。」(mood=気分・雰囲気)
あぁそりゃぁな、アンタは育ちの良いお坊ちゃんで就職してる会社も月収も俺なんかとは比べ物にならないくらい上流の超エリートだから、これくらい全然苦にもならないんだろうけどさ。ムードとか雰囲気作りとか、そういうの気に掛けるマメな性格だってのも知ってるし、アニバーサリー好きだからついつい気合が入ったのも十分わかるけどさ。
ここまで来ると、逆に気まずいって。何なんだよ、目の前の贈物の箱とか。俺ってそういうの気にしないけど、有名なシルバーアクセのロゴが入ったプレゼントボックスだよな、多分。あそこって純銀使うんだよな、純銀を、そりゃもう惜しげも無くふんだんに。桁とか、大体六桁だよな?
「政宗ぇ…俺、お前の価値観を甘く見すぎてた。」
育ってきた環境の違いって、こんなにも人間を変えるんだな。俺は今日改めて再確認したよ。
嬉しいけど、嬉しいけど、でも逆にこれじゃあ喜べない。
俺だってちょっとは浮かれてたんだぞ?バイトの日数増やして、ちょっと奮発したプレゼントも買ってあって、いつも節約してるけど今日くらいなら外食とかもしちゃおうかなとか思ってたりとかして…。でも、ここまで完璧なものを用意されちゃうと、俺どうしたらいいかわかんねぇよ。
「価値観?お前と何一つ変わってないだろ。X’masだからつい、気合入っちまってな。」
「言い直す、金銭感覚だ!」
ビシリと政宗を指差すように人差し指を目の前に突きつける。でも政宗はそんな俺のリアクションを最初から予期していたのか、大して気にしていない様子でこの部屋用のボーイを下がらせた。
シンと静まる部屋にクリスマスソングが微かに流れている。ロマンチックな夜景に、完璧すぎるデート。自信家の俺の恋人は、指差していた俺の人差し指を軽く摘んだ。
「どうしてだ、Honey?好きな奴の為に尽くしたくなるのは人のサガって奴だろう?」
「…限度を知れ、限度を。今日一日の出費と俺の一ヶ月の生活費、イコールで繋がるだろ。」
断言すれば政宗はウッと小さく唸って言葉に詰まる。どうやら図星らしい。
これと同じような事は今年のバレンタインでもやったはずだ。あの時は政宗の家に招待されて、そこで世界的に超有名なショコラティエのチョコレートをご馳走になったんだが、まさか、あぁまさかその為だけにショコラティエを直接家に呼びつけていたとは思わなかったさ!
外人だぞ、外人。しかも自分の店を持ってるような奴を、わざわざ仕事休ませて日本に連れてきて…必要経費だけで一体幾らつぎ込んだんだか。今思い出すだけで眩暈を催す。
「で?幾ら使った?」
問い掛けると同時にポソポソと小さな声で返ってきた金額に俺は目を丸くして、思わず声を張っていた。
「この馬鹿!何度言えばわかるんだよ、いい加減覚えろ!」
叱り付ける様な声に、政宗はビクリと体を震わせた。自信満々だった表情は打って変わって、金色の独眼が不安そうに俺を見つめてくる。
「…Sorry。」
俺の人差し指を摘んでいた手が伸びて、ギュっと手を掴んでくる。縋るように俺の手を引き寄せて、政宗はそのままテーブルに肘を突いた。額を手に押し当てて顔を俯け、隠してしまう。
「わかんねぇんだ。そういうの…使いすぎ、とか浪費、とか。」
前も同じ事言われたのに、と付け足すと、スンと小さく鼻を啜るような音。それを聞いた途端に俺は、何だか言い表せない罪悪感に包まれる。
いや、嬉しいんだ。嬉しいけど、流石にアニバーサリー毎にこんなんやられたら困るって言うか何て言うか。
「お前が喜ぶかなって思うだけでアレもコレも全部欲しくなって、止まらねぇんだ。…でも、困らせちまった。」
しょげてしまった政宗に俺の良心がズキズキと痛みだす。マトモな金銭感覚を身につけて欲しいって一心なんだけど、でも、そんなにすぐ変われないんだろうな。
バレンタインの時に比べたら大分金額も安くなってたし、ここは妥協すべきなのかもしれない。
俺がぶち壊してしまったくせにこう言うのも何だけど…やっぱり、嬉しいのは確かだから。
「わかったよ。…もう、すんなよな。」
「勿論だ、Honey!」
俺の言葉にぱっと顔を上げてこちらを見る政宗。キラキラと輝く目を見て口元が綻ぶ辺り、俺はやっぱりコイツに甘いんだろう。
「今度からはそういうのは俺と一緒に企画する事。支出とか全部見せろよな。」
俺の言葉にコクコクと素直に首を縦に振る政宗。素直すぎて気味が悪いが、でも今の内に決めてしまえば政宗の暴走も防げるし、今しかない。
「Ya!約束する!」
「サプライズだから報告しなかったー…とか、言うなよ?」

