あの日から変わった俺
 衝撃的といえば衝撃的だっただろう。見知らぬ衣服に身を包んだ、珍しい髪色の青年の姿。死屍累々が大地を埋め尽くす中で立ち尽くすその姿は、まるで戦の神、阿修羅のようにすら見えた。
 飄々としているくせに、動きは必要最低限。戦いという物に興味なさそうな面しておいて、その実、目はランランと輝いているgap。真田との戦いの為とworming upしていた体で挑んだ挑戦すら、事も無げにあしらう姿。
 その阿修羅を手に入れたくて、子供のような我儘を言ってのけた。そんな俺の腕を振り払う事無く、むしろ挑戦的に睨みつけて、「誰のものにも成らない」なんて言いやがったその瞳。
 手に入れたいと思ったのは俺自身。
 国が絡んだ計算もあった。若干は。でも内心渦巻くものはもっと別の何か。楽しいものを見つけたんだと、本能がそう告げて…それが本当だと知った時はもう、驚きを通り越して驚愕すらした。
 違う世界から来たんだと告げるその唇は、嘘を塗りこんだ色をしていない。純粋に真実を紡ぐその唇に、俺は本当に阿修羅を、戦神を手に入れたのだと知った。


理由なんて簡単だ
 手に入れた戦神は随分と子供っぽく、ふらふらほっつき歩く様はどこか成実に似ている。それでもその武勇は凄まじい物だったと、後から草の者に聞いて俺はその場にいられなかった事を少しだけ後悔した。
 北の一揆での戦いで見事任務を成功させたの、道具としての顔。俺の刀であり盾であるその「菫」という姿は凛としているのに顔だけは笑っている。それしか知らないように吊り上げられた口元は無機質だ。
 それから目を背けたのはきっと、そうやって自分を他の人間として捕らえるの姿に、自分を重ねていたからなのかもしれない。
 父上の扇を手にして俺は泣いた。ずっと心のどこかでつっかえていたものが一気に濁流みたいに頭の中を埋め尽くして、後悔とかそんなもの持っちゃいけねぇってのは良くわかってるのに、感情が付いてこなくて…。
 恨み、後悔、苛立ち。切り捨てて乗り越えたフリをして、ずっと俺の心に残っていた物。奥州筆頭という型に嵌めこむ事で漸く保たれていた均衡を、はいとも簡単に破り捨てた。
 純粋に嬉しかった。人間としての恨みとか、後悔とか、そんな汚いもの全部ひっくるめて俺を抱きしめたその腕が。
 嬉しかった。


頑張る姿を見ていた
 褒めて欲しいなんて、稚拙な言葉をは幸せそうに紡いだ。
 戦場に立つ「菫」としての姿や、勿論普段の飄々とした様子からは到底想像できないその言葉に俺は目を丸くした。酒が入って睡魔に襲われたのだろう、それ以降、は寝息を立ててしまう。
 まるで子供だと思った。褒めて欲しい、認めて欲しいと言う気持ちは誰しもが持ち合わせるものだ。
 とは言えど、誰のものにも成らないと断言した男の唇から紡がれたとは到底思えない。それは純粋に…そう、純粋に親の愛情を求める子供のようで。
 その姿が自分の幼い頃の、母上の愛情を求めて足掻いていた自分に重なっていた。
 伸ばされた手に自分の指を絡めて引き寄せてやる。あの時俺を抱きしめた腕は予想よりも細くて、こんな細い腕一本でコイツはどれくらいのものを背負って生きてきたのだろうかとかを考えながら眠りに付いた。
 平和な世の中で、平和ではない生き方を選んだのにはそれなりの理由があるんだろう。そしてその理由の根本にはきっと、この純粋な願いが込められているに違いない。
 ならば俺は与えてやるだけだ。お前が頑張れば頑張るだけ、それに見合った対価を与えてやろう。そう思った。


とっくに気付いていたけれど
 傷の舐め合いのようなものだと思った。俺は政宗と言う一個人を尊重された事に感動し、は俺の与えた褒め言葉に嬉しそうに笑う。…互いに空白を埋めるようなそんな行為は、傷の舐めあいのようなものだと、思っていた。
 スキンシップが過剰になっていると成実にからかわれ、小十郎からも接触が過ぎると説教を喰らった。果たしてそうだろうかと膝枕をする相手に問い掛ければ、その通りだと言わんばかりの視線が降り注いだ。
 どうやら俺の周りに味方は一人もいないらしい。ため息をついて寝返りを打つ。そんなのどかな時間も、冬が終わると同時に終わりを告げるんだろう。
 お互いにお互いの欲しいものを与え合うというぬるい環境が思った以上に心地よくて、俺は目の前にぶら下がっている問題からあえて目を背けていた。
 それは俺との価値観が、必ずしも等号で結ばれたものじゃ無いって事だ。
 は俺以外の奴相手でも、仕事をすれば褒められるんだろう。優秀だからな、きっと求めた言葉をもらえるに違いない。でも、俺は違う。
 俺に奥州筆頭という名前がくっついて来ない日は無い。例えどんなに俺が望んでも、まず最初に俺の名前よりも奥州筆頭と言う名前が付いて回ってくる。それを疎ましく思った事なんて一度も無かったし、それが俺の誇りでもあった。
 でも、俺を俺として受け入れてくれる存在なんてコイツ以外に知らなくて。
 等号で結びつく事なんて最初から無かった。俺は多分、に酷く依存している。


嘘だって構わない
 今の気持ちを表すなら苛立ちという一言で片が付くのに、心の中はその一言だけの感情で大荒れだ。
 来客である元親の、予想以上の進行速度に俺の頭はheat upしている。何故かって?そりゃ、アイツが元親に気に入られて、挙句満更でもなさそうだからだ。進行速度は雪合戦なんかじゃねぇ、への元親の浸透能力の早さだ。
 お前の飼い主は俺だろうが、そう言えばは薄っぺらな笑いを浮かべて「誰のものにも成らない」?ああわかってるよ。アンタはそうやって俺を切り捨てるんだろ。アンタと俺は等号にはなれない。
 俺の変わりになる奴なんて幾らだっているもんな、お前には。そう思うと目頭が熱くなった気がした。
 八つ当たりみたいに酷く冷たいセリフを吐けば、すべてお見通しと言ったようにはふっと笑いを浮かべて…今度は普通の、人間らしい笑いを浮かべて。右側を預ける俺の背中に、ぺったりと背中をくっつけた。
 何をどう勘違いしたのか、俺に向かって優しいだなんて抜かすその顔は、やっぱりいつも通りの気の抜けた顔。俺はの膝の上に頭を置く。
 お前相手だから優しくしてるんだと、そう言ったところで信じちゃもらえないだろう。いつもからかいが過ぎてるからな。
「お前だから、だ。誰にでも優しい訳じゃねぇ。」
 右側を渡すのも目を閉じるのも、俺なりの信頼の証。ここで手を離したらお前は軽々と他の場所に行ってしまいそうで。
 例え嘘でも、そんな事無いなんて言ってくれりゃいいんだが。
 お前はそんな奴じゃ無いし、俺も結局はそんなアンタが気に入ってるから、到底無理な話しなんだけどな。





 五千打にちなんで五文字のお題、「ありがとう」でした。頭文字をとると、ありがとうになるという、それだけですが。
 ちょうど区切りもいいので、政宗様の気持ちの変化とかそんなものを皆さんに伝えられたらなぁと。

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