「お前こそ、さっさと政宗からの命令をこなせよ。さもないと、廊下に転がってたって言いつけんぞ。」
「きったねー!そう言ったらまるで俺がズル休みしてたみたいじゃん!」
 政宗という名前にビクリと体を跳ねさせてから成実は慌てて立ち上がる。
 先生に言うぞって奴ほど、先生を恐れているもんだ。それはどうやら戦国時代でも通用するらしい。この場合、それが政宗に代わる訳だけど。
 成実は寝転がってたせいで若干乱れた袷を直しながらチラリとこちらを見やる。
「梵には言うなよ。」
「わかってるって。成実が言わなきゃ、な?」
 お互い様だというように笑いかければ、成実も了解の意味を込めて笑い返す。随分ちっぽけな約束ではあるけれど、秘密って言うのは不思議な連帯感を植えつける。子供でもないのに、お互いに顔を見合わせてそれを楽しんだ。
「なぁなぁ、散歩の他にやる事あるのか?」
 懐に入れたそろばんをジャラリと鳴らして、成実が一歩前に出る。何かを思いついたのかその表情は活き活きとしている。…成実の場合、活き活きしていると内容に若干加虐要素が混ざってそうで怖い。まぁもしそうだったら全力で走って逃げよう。そう心の中で誓ってから首を傾げる。
「別に無いけど?」
「じゃあさ、今日の戦利品見せてやるよ。」
 戦利品。ゲームでもあった獲得シーンが現実だとどういう風になるのか。それが実際目に出来るとなるなら、否というはずも無い。
「いいのか!?」
「おっけー、おっけー。一人でやるのはつまんないしさ、誰かいる方がいいじゃん?」
 そうと決まれば早速と、成実が俺の手首をがっしりと掴んで廊下を走り出す。突然すぎてついて来れない俺がバランスを崩してもお構いなし。まるで散歩に喜んで飼い主を引きずる大型犬だ。
「転ぶ!転ぶ!」
 引っ張られながら走るのはバランスが取れない。そのせいで何度も脚がもつれて転びそうになるのに、この大型犬は止まる気配すらない。少しは人の事も考えろ!
「止まれ!待て!ステイ!!」
 廊下を爆走する犬の背中目掛けて、止まるようにと叫ぶけど駄目だ。何一つ伝わってない。いっそ転んでしまえば止まってくれるんじゃないかと本末転倒な事を考えたが、きっと成実の事だから俺が転んでも気付かないでそのまま廊下を駆けて行きそうな気がして止めた。
 と、突然成実が止まる。それに気付いて足を止めるも、勢いがついた体はすぐに止まる訳も無く。
「わぶっ!」
 成実の背中にダイブするようにして、俺の体は漸く止まった。その時に変な声が出たのは気にしちゃいけない、きっと。
「到ー着っ!って、どうして背中にへばりついてんの?ってば実は甘えん坊?」
「ンな訳あるか、このボケ!」
 なんとも偉大な勘違いをする成実の背中にパンチを食らわせてから離れる。痛そうに顔を顰めてはいるが成実はご機嫌のようで、つれないなーなんて軽口を叩きながら目の前の扉を開けた。
 そこは倉庫のようになっており、壁際から床一面をズラリと色々なものが並べられている。所狭しとはまさにこの事を表すのかもしれない。
「これ全部、戦利品なのか?」
 箪笥に机に着物に大きな壺、甲冑や刀、槍まである。そのどれもこれもに贅沢な装飾がされていて、いかにも王様が使ってます!って雰囲気をかもし出している。
 よくもまぁこんなに集めたもんだと感心しながら、物と物の間に足を置くようにして部屋に入る俺に続いて成実が部屋に入る。
「そうだよ。あと四部屋あるらしいから、さっさと片付けないと。」
 あと四部屋?目を丸くして振り返る俺に成実はどうかしたのかと首を傾げてから、部屋の奥へと床の上を乱雑に並ぶ品物を器用に避けて進んでいく。その姿はどこか慣れているようにも見えた。
「終わるのか?こんなに沢山…」
 多すぎだろ、これは。それともあれか?ゲームキャラは体力だけじゃなくて頭の回転まで速いのか?一人考え込む俺の耳に、紙の束を開くようなバサリという音。成実は懐からノート…この時代じゃ帳面っていうのか。それを取り出して開いた。
 その右手に突然筆が現れる。一体どうしてかと思ってみれば、天井から黒脛組が現れてそれを持たせているようだった。その証拠に黒脛組の片手には硯と予備の筆が準備されている。
「さーて、どんくらいの値段にしようかなっ。」
 荷物と荷物の間をまるで軽業師のように跳ね回りながら、成実が帳面にすらすらと筆を走らせて行く。時折筆を上に向ける動作をすると、黒脛組がそれに気付いて新しく墨を含ませた筆とそれを交換する。二人とも手馴れた動作だ。
 あっという間に帳面が埋まって次のページ、次のページとめくられていく。それが半分くらいまでいった時、成実は丁度部屋を一周して止まった。
「こんなもんか。」
 あの短時間でこの部屋にあるものすべてに値段を付け終わったらしい。どうやらゲームの中の住人は体力だけじゃなくて頭まで良いらしい。頭も良くて体力もあって、顔も良くて?ゲームとはいえその非の打ち所の無さは羨ましい限りだと、妬み混じりの視線で成実を見ていると、突然天井にいた黒脛組が床に下りて成実の書いた帳面を受け取った。そして成実に見えるように帳面を開く。
 それを確認してから、やや演技がかった大げさな身振りで成実がそろばんを懐から出した。