「どうしてそんな事聞くんだ?政治…この場合は政っていうのか?そういうのも何も知らない俺なんかに。」
「わからないからこそ、だ。」
そう断言する政宗の目が一瞬揺らいだ。その時に垣間見えた色が、例の畠山氏の話が出た時のそれと酷似していて、俺は政宗に気付かれないように内心で小さく溜息をつく。
伊達家と畠山氏の間であった何かを知らない俺だからこそ、政宗は先入観を持たない俺に判断してもらいたかったんだろう。でも俺としては一体何があったのかが気になるのだ。
そこに好奇心が無いといったら嘘になる。ゲームの中だけでしか生きてなかったキャラクターが、今まで生きてきた証である過去を持っているなんて、感動ものだ。
でもそんな浮ついた考えが支配するのはほんの僅か。他の部分は全部違うもので埋め尽くされている。
例えば、俺だけ何も知らない疎外感、純粋な知識欲、らしくない政宗への心配。特に一番最後のものが俺の中を陣取っている訳だけれど。
欲を言うなら、言って欲しい。辛い事は口にするとスッキリする事もあるし、俺がそれを知る事で政宗の支えになれるんじゃないだろうか、とか。そんな事を考えるけれど、口に出して楽になれる出来事ならまだ良い。でもその反対、口に出す事すら苦痛になる事もあるというのを俺自身が知っているからこそ、教えて欲しい、話して欲しいなんて事は言えなかった。
「戻っていいぜ、引き止めて悪かったな。」
問い掛けが終わってスッキリしたのか、政宗がそう言ってくる。瞳に揺らぎはもう無い。政宗の中では、もうすべてに片は付いたのだろう。
問い掛けたい気持ちをグッと飲み込むと、俺は頷いてから扉に向かった。
話してもらえないのは寂しい。でも、俺が何も知らないからこそ、政宗は自分の行いが正しいかという疑問という形で、弱音を俺へと吐く事ができた。これ以上政宗を抉る必要は無いし、過去を蒸し返して痛みを思い出させるのもきっと辛い。だから、これで良い。それ以上を望む必要なんて無い。
そう自分に言い聞かせて部屋を出る。が、すぐに割り切れるほど俺は大人じゃ無い。理論と感情はまた、別の話しなのだ。
気晴らしに城内でも探検するか、と大きく伸びをしながら考える。政宗は休めと言ったけれど、この世界でのハンデの一部なのか体はまったくと言って良い程疲れていない。気持ちは疲れているようだけれど、体が疲れていないのに休むのは逆に体を鈍らせる。
どうしようかと悩んだのはほんの一瞬。俺の足は、俺の与えられた部屋とは別の方向へと向かって歩き出した。
長い、庭に面した廊下。歩いているとその日当たりの良い場所になにやら四角いものが落ちている。誰かの落し物だろうかと思って近付くと、それはそろばんだった。瞬間、俺の頭の中にある人が思い出される。
「鬼庭さんのか?これ。」
初めて手合わせをしたとき、確かそろばんと日向ぼっこが仕事なんて言っていた気がする。という事は近くに鬼庭さんが?
思わず身構えてしまうのは…と考えて、やめる。身構える理由は鬼庭さんのあの黒いオーラのせいなんだけれど、近くに鬼庭さんがいた場合、心の中を読まれるんじゃないかとかそんなありえない事を考えてしまうのだ。
でも、鬼庭さんならできそうで怖い。
結局失礼な事を考えてしまう俺の背後に人の気配。まさかと思うも振り返るに振り返れない。もし後ろにいるのが鬼庭さんだったら目も当てられない状況だ。
しかし幸か不幸か、後ろから駆けて来た大きな足音は別の人のものだった。
「俺のそろばん発見!!」
一気に後ろから俺を追い抜いて、床に落ちていたそろばん目掛けて勢い良くスライディングしたのは言わずと知れた成実だ。こんな動きやテンションは、多分伊達軍の中でも成実ぐらいしか持たないと思う。
「それ、成実のだったのか?」
俺が問い掛けると、スライディングしたまま動きを止めていた成実がごろりと寝返りを打ち、仰向けになってから頷いた。
「そうそう。ほら、梵に品物の値段を大体で良いから出せって言われて張り切っちゃってたらいつの間にか落としてたみたいでさ。」
ゴソゴソと寝転がったまま成実は懐にそろばんをしまいこむ。それを見ながら、そういえば鬼庭さんは北の方への物資を蔵へと運んでいるのだと思い出した。
つまりあんなにハラハラする事なんて無かった訳だ。
「俺はてっきり鬼庭さんのそろばんかと…」
「あー、うん、鬼庭はいつも日向ぼっこしてるしね。でも、鬼庭は絶対にそろばんを置いてったりしないよ、絶ッ対。」
なんで絶対を二回も言うのかと思いながらも、それが一番相応しい表現方法なんだろうなというのが何となくわかった。
「で、はここで何してんの?」
問い掛けられても別に何か目的があった訳でもなく、散歩と素直に返せば、成実はニシシと悪戯な笑みを浮かべた。まるで先生に告げ口をしようと企んでる小学生みたいな、顔。
「梵が休めって言ったのに休んでないなんて…後で怒られるぜ?」
一見するなら注意だけど、その顔つきからして後で自分から政宗に告げ口するつもりに違いない。口止めしたところで、サドな成実が容易く了承するはずもないし。
一体どうすれば告げ口を防げるか。考えた結果、俺はまだ寝転がっている成実に近付いて、にやりと笑った。

