9.
 最北端一揆鎮圧後、伊達軍と俺は無事に帰還し、その後を追うように畠山氏を討伐しに行った小十郎が帰ってきた。
 その片手に首桶を引っさげて。
 殺してきたんだと理解するのが何だか遠い事のように思えてしまうのは何故だろう。自分自身は平和な世界に生きていたとは言えど、人を殺すという行為にはとても近い存在だったはずなのに。
 そう思ってから、納得する理由が思い浮かぶ。俺から見れば小十郎を含め、政宗もいつきも全員が全員ゲームの登場人物に過ぎないんだ。だから彼らが命のやり取りをしているという感覚に薄いんじゃないかと思う。まぁあくまで仮定の話しだけど。
 そして俺達は軍議をする為の長い部屋の中に集められていた。と言っても伊達軍全員を集める訳ではなく、頭を張っている奴らだけを集めて今後の対応をどうするかを決めている。
「鬼庭は必要な食料と薪等の日用品を村に運ぶ準備をしろ。空いてる蔵があったからそこに運ぶ物資を詰め込んでおけ。成実は畠山氏の財宝の目ききをしろ。黒脛組は怪我の治療で減った薬の補給と、西の同盟国へ財宝を買い取らないか打診の連絡。小十郎は自分の軍の奴ら共々ゆっくり休め。」
 政宗の采配は的確且つ機敏だ。質問の隙すら与えないし、質問を必要とする程の曖昧な命令は全くない。時間という物を一秒たりとも無駄にしないという姿勢が見て取れた。
 だけどそれに異を唱えたのが一人。まぁ政宗に意見を言えるほどの人間といえば一人しか居ない訳で。
「私に休め、ですか?」
 どうしてだというように小十郎が声をかければ、政宗はハァと短く溜息をついた。小十郎としては政宗の為に少しでも多く働きたいんだろう。とは言えど、戦から帰ってきたばかりの奴に命令を下すような事を政宗が良しとする訳も無い。
「Readerが休まなきゃ、下の奴等も休めないんだよ。お前の軍の奴らを大事にしたいなら、今は大人しくしてろ。」
 的を射た政宗の言葉に小十郎はそれ以上言葉を紡げないでいる。まぁ今回は政宗の言っている事が正しいから、小十郎に勝ち目なんてないんだろうけれど。
 小十郎が了承の意を込めて頭を下げるのを確認してから政宗はこの場に集まった全員に視線を向けてから口を開いた。
「今晩は北の一揆鎮圧と畠山氏の討伐の祝勝会、それに新しく入ったの歓迎会だ!派手にやろうぜ!」
 Year!という声。ノリとしては応援団の押忍!に近い感じで、腹から出したような大きな声が広い部屋に響き渡った。それを見て政宗は嬉しそうに笑い、それから俺に視線を向けた。
「菫は残ってな。他の奴らは解散だ。」
 名指しされたものだから俺は驚いて政宗に目をやる。それとほぼ同時ぐらいに他の奴らは次々と席を立って部屋を出て行ってしまった。
 だだっ広い部屋に残された俺と政宗。一体何の用事かと問おうとするよりも早く、政宗が声を出した。
「初めての任務だが、上出来だったな。お前のお陰で何とか農民に被害は出なかった。」
 褒めてもらえると頑張った甲斐があるものだ。色々と手加減の練習も出来たし、今回の任務は大分収穫があったといって良いんじゃないかって思う。
 満足感に満たされている俺に政宗はもういいぞ、と言った。
「ご苦労だった、菫。」
「じゃ、任務終了?」
 問い掛けながらも俺はどこか何かが寂しいようなそんな気がして仕方なかった。さっきまで満足していたはずなのに、一気にそれも萎えてしまう。
 よくわからないけれど、あまりに満たされ過ぎていたんだと思う。充実した任務の時間が終わってしまうのかと思うと、必要とされていた菫という存在からというただの人間に戻ると思うと、折角得たはずの何かが消えてしまったようなそんな空想に捕らわれた。
 政宗はそんな俺に気付かないようで、疲れただろうしお前も休めよと笑いかけてくる。
 何かが無くなった場所に、その笑顔が入り込んでくる。さっきの充実感とは又違ったものだけれど、それはそれで悪くないと思った。いつきの癒されるような純粋な笑みに近いそれは、心地良い。
「んじゃ、少し休ませてもらうか。」
 大して疲れた訳では無いけれど、そう口にすると体がだるく感じてしまうのが不思議だ。それと同時に俺の中にある菫の存在が希薄化して消えていく。正確には消えるというより見えなくなる、という表現が近いんだろうけど。
 話も済んだ事だし、もう退出しても大丈夫だろうかと思って立ち上がろうとしたその時。
「それと…なんだが。」
 いかにも言いにくいです、というように言葉を濁す政宗。自信家の政宗がそんな風にしているのは妙な違和感を感じてしまうが、政宗自身それを気にしているらしく、落ち着きなく視線を泳がせていたのであえて気付かないふりをした。
 政宗は言葉の続きを言うまでに大分時間を要した。それほどに重要な事を言うのかと、俺は身構える。けれど俺に言われた言葉は予想とは違っていた。
「…俺はちゃんと対処できていたか?」
 何の事を、とまでは言わなかったけれど、対処と言ったら北の一揆鎮圧での采配の事しか出てこないし、それで間違っていないだろう。
 国政とかにあまり詳しくない俺が言うのも何だけど、凄く適切だったんじゃないだろうか。政宗が問うほど酷い対応をしたとは到底思えない。
 とはいえ、問題はどうして俺にそれを問い掛けたのか、という事だ。俺なんかより小十郎辺りに聞いた方が、政治云々はわかると思うのに。そう思いながらも、一応問い掛けに答える。
「大丈夫だったと思うぜ?適切な処置だったと思うしさ。」
 問題なんてこれっぽっちも浮かばない。むしろ俺としてはこっちの方が問題で。