「痛かった?」
問い掛ければいつきは無言のままコクリと頷いた。
「痛かったけんど、あん時、兄ちゃんがおらを止めなかったら、おらは死んでたべ?」
昨日の憔悴しきった顔、立つ事で精一杯だった足、それらを見ればすぐにわかる事だ。
多分いつきはあの晩、死んででも豪族達に一矢報いようとしていたんだろう。その志をくじいたんだ、さぞ悔しいに違いないし、余計な事をと罵られるかもしれない。
それでも、あの時の俺の判断は間違ってなんかいなかった。
農民から死者が出れば政宗からの命令に反する事になるし、何より命を賭けてでもと思っているいつきを止めるにはあれくらい痛めつけないと駄目だっただろう。
もし俺以外の奴でもっと頭がいい奴が対応したなら、いつきを気絶寸前まで追い詰めなくても良かったのかもしれないけど。でもあの時の俺が出来る最善はそれしかなかった。だから謝らない。もしも謝ったら、あの時の俺の判断だけじゃなく、いつきが受けた痛みも、俺をここへよこした政宗の意も、全部を否定する事になっちまう。
だから謝らない。謝るくらいなら、最初からしなければいいだけなんだから。
とはいえ、どこか開き直ったような俺の態度にいつきは気分を害したんじゃないかと思った。自分に対して暴力をふるった奴に対して友好的になるなんて、普通なら嫌だろう。
しかし俺に掛けられた言葉は予想に反したものだった。
「痛いのは治るだ!だども、死んだらもう二度と治んねぇ…。兄ちゃんに助けてもらんなきゃ今のおらはいないだよ。」
笑顔でそう言われ、一瞬思考が止まってしまう。
いつきを助けようと思ってやった訳じゃない。そりゃ結果論としてはそうなったのかもしれないけど、礼を言われる為にやった訳じゃ無いし、俺はただ自分の与えられた仕事を全うしただけで。
頭の中で言葉がグルグル回るのに、中々言葉にならない。そうこうしている間にも、いつきは何を思ったのか俺の手を小さな掌で優しく掴んでくる。
「例え兄ちゃんがおらを助けるつもりじゃなかったとしても、そのお陰でおらがここにいる。それは間違いねぇだ。だから勝手に言わせてもらうだよ。…ありがとな、兄ちゃん。」
予想外の行動にどうしたらいいんだろうと思って、救いを求めるように政宗と成実に視線をやる。二人とも微笑ましいものを見るような目で俺を見ていたから余計に頭は混乱する一方だ。つまりこれは甘んじて礼を受け入れろという事なんだろうか。
自分の意図した訳じゃ無い結果がついてきて戸惑う俺に、いつきはにこりと子供らしい笑みを浮かべ、子供独特の純粋な瞳で俺を射た。それに少し癒される。
「どういたしまして。」
どうしたらいいかわからなかったので、いつきの頭をグシャグシャと撫ぜてやる。その対応が合っていたのかよくわからないが、とりあえずいつきが嬉しそうに笑ったから良しとしよう。

