「お侍はどれも同じだ。何度領主が変わったって、ちっとも良くなんてならねぇ!酷くなる一方だ!」
「じゃあ、」
 今にも噛み付きそうな勢いのいつきの声を遮って、政宗が声を出した。言葉を中断させるには随分と不釣合いな優しい声色。それに驚いて、いつきは言葉を連ねるのを止める。
 いつきの口が止まるのを確認してから、政宗は再び口を開いた。
「俺達がそれを変えてやる。もう、こんな辛い思いはさせねぇ。」
 言い聞かすように、諭すように。そんな表現がぴったりとくるような声で政宗が言う。しかし今までの経験が容易に頷くのを拒絶させてしまっているのだろう。
 いつきの顔はまだ、強張ったままだ。
「そうそう。年貢の量は今までの三分の一でいいんだよ。って言っても、今まで畠山氏が勝手に三倍の年貢を取ってたから、元の量に戻るだけなんだけど…。」
 成実が口を挟む。軽口ながらも、必死に説得しようという姿勢が窺えた。
 が、いつきや村人にとってはその成実の姿勢よりも、その言葉の内容が重要だったらしい。いつきを含めた全員が全員、まるで信じられないと言わんばかりに目を丸くして口を大きくポカンと開けた。
「三分の、一?」
 村人の中でも一番痩せていた男が口を開いた。その言葉を正確に処理する為に時間がかかっているのか、何度もその部分を繰り返す。
 今までこの村でどれ位の量の年貢を納めていたのか知らないけれど、一揆が起こる時点でかなり酷いものだったに違いない。そんなものが当たり前だったからこそ、こんな風に普通の量の年貢に驚きを隠せないんだろう。
「そうそう。きちんと決まった量のお米を謙譲してくれれば、他のものを税として取り立てる事も無いし。」
 どうだと畳み掛けるように成実が言葉を続ける。まぁこの勢いなら押していってもいい結果になるだろう。でも、だ。
 今までずっと辛い場所に居た人達が、突然甘い条件を目の前に差し出されたら、返って不安になるんじゃないだろうか。その証拠に、真実を語っているというのも伝わっているだろう事は雰囲気でわかるのに、村の人達は頷いてくれない。いつきも渋い顔のまま黙り込んでしまっている。
 どうしたらいいのだろうかと考えていると、いつきが小さく首を縦に振った。
「…わかっただ。おらはこのお侍を信じるだよ。」
「いつきちゃん!?」
 信じられないと言うように村人がいつきへと視線を向ける。政宗も殆どリアクションをとってはいなかったが、その瞳に僅かに動揺が走った。
 そんな周囲の反応に気圧される事無くいつきは真正面から政宗を見据える。あどけない顔つきながら、その表情は確かに人を率いる者のそれだった。
「ただの農民のおら達に、このお侍は直接話してくれただ。その誠意に、おらは賭けたいだよ。」
 いつきの声に村人の一人が小さく声を漏らした。
「確かに、今までのお侍なら俺達が声をかける事も許さなかっただな。」
「んだ、おら達の事なんて人だとも思ってねぇような目さしてただが…あんた達は違う。」
 いつきの言葉が波紋のように男達へと広がっていく。ゲームの中じゃただのアイドル、いわばお飾り的な部分が見受けられたけど実際は違うんだな。やっぱり人の上に立つ人はカリスマ性だけじゃなくて、言葉一つ一つの重みが違う。
 まぁ、政宗の凄さには敵わないけどな。
 なんて事を考えている間にも話しは纏まったらしい。村の奥で傷の治療や待機をしている一揆衆の人達にはいつきから話しが行く事で合意した。それにより事実上、北の一揆は鎮圧。伊達軍の支配下に下った訳だ。
「ミッションコンプリートってやつだな。」
 詳しく今後の方針についての骨組みを決める為に、政宗と成実、いつきと村の代表が何人か集まって小屋で会合を開いている中、俺は一人、その小屋の前にいた。
 見張り役としている訳だけど、正直誰も来ない。伊達軍の奴らは田んぼの補修に夢中になってるし、村の人も気を遣っているのかそれともまだまだ侍に対しての恐怖が強いのか、とにかく誰も来ない。捕虜として捕まえた奴らは黒脛組が畠山氏の領地へ強制的に帰らせたし。
 昨夜の事とはいえ、あれだけド派手な仕事をするのが初めてだったせいもあって、かなり気が昂っている俺としてはこの状態のまままんじりともせずに立ち続けるのは正直辛い。せめて誰か手合わせ、もしくは急襲してくれないだろうかとかそんな物騒な事を考えていると、小屋の戸が開いた。
「Hey,不審者は…って、そんなシケた面じゃ何も無かったみたいだな。」
 上機嫌で出てきた政宗の言葉に頷いて見せるけれど、そんなにしけたような顔をしてたんだろうか。自覚は無いのだけれど、つまらないというオーラは多分出てたんじゃないかというくらいに、俺が暇をもてあましていたのは間違いない。その証拠に、政宗の後から出てきた成実に指を指されて笑われた。
 成実曰く『構ってほしくてうずうずしている犬みたい』だそうだ。
 俺を動物に例えた時の目が、本当の動物を見ているような目線で軽くむかついたけど、無視だ。ここで食いついたら最後、動物を愛するこのサドに何をされるかわからない。
 そしてその後をいつきが出てきたけれど、俺の顔を見た途端にその大きな瞳に不安の色を宿した。まぁあれだけ痛い目にあわせれば当然なんだろうけど。
 でも俺は暴力をふるった事に対して謝る気なんてこれっぽっちもなかった。だから特に何かをいう必要も無いんだけれど。