ザフっと刀が雪に埋もれるように落ちるのとほぼ同時、今までこの様子を呆然と見ていた軍が動きを見せた。先頭を作っていた武者達が一斉に俺を取り囲む。
「逃げないのか。案外度胸あるんだな。」
俺の速さを見ていたはずなのに立ち向かってくるあたり、勝てる算段があるのか、それとも多勢に無勢ならなんとかなると思っているのか。どちらにせよ、その度胸には感服する。
だが時として、度胸というのは無謀という言葉になる。
「まぁいいや、ちょっと手伝ってくれよ?」
さっき足を攻撃してわかったけれど、手加減の方法をあまり熟知していない俺がいる。これからの事を考えるなら手加減を覚えておいた方が得策だろう。
刀を地面に水平になるように上段に構えると同時、後ろから人の気配が迫る。
振り返る事無く左に避ければ、俺の右側を勢いあまって通過する武士の姿。それをじっくり観察する暇も無く、次は左前から飛び掛られ、それを右へといなしてさっき通り過ぎた奴とぶつけ合わせる。
まるで時代劇の戦うシーンのワンカットみたいに、次々と飛び掛ってくる武士達を、伊達軍相手の時のように大した怪我も無くかわしていく。
「うぉぉっ!」
俺に真正面から向かって刀を振り上げる男。それを防ぐと、左右から俺目掛けて刀が突き出される。逃げるように前に体重をかけて走り込めば、目の前の男は腹を見せるように地面にダイブする。背中の方で、刀がぶつかる金属音が響いた。
そろそろ、攻撃に入るか。
刀を緩く右だけで持って、いつものナイフを使う時のように腕を下げる。長さが違うから少し勝手が悪いが、慣れるまでの辛抱だ。
斜め右から飛び掛る男の鎖骨目掛けて刀を突き出せば、ゴリっという音と共にその体が後ろに傾く。倒れきるまで見届ける事無く次、後ろに回る事になった二人へ牽制するように刀を地面に水平に構えて一回転する。
刀の先は当たらなかったというのに、近くに居た奴の顔を横断するように一本傷ができていた。空気圧で切れたのだろうか、と思う間もなく再び正面から違う男が飛び掛ってきた。
「邪魔。」
自分目掛けて振り下ろされる刀をうっとおしいと払うように振るえば、相手の刀は跳ね飛ばされ、凄い勢いで回転しながら地面へ突き刺さった。可哀想に、俺の目の前の男は丸腰という事だ。
そんな彼を守るように左背後と右から男が切りかかってくる。俺は体を捩じって左背後の男の手を掴み、右から来る男へと投げつけた。その勢いで男二人は吹っ飛ばされ、後ろに居る奴らも巻き添えにして地面に倒れ伏す。その腕や足があらぬ方向へ捻じ曲がっていたのは見ないふりだ。
戦い独特の高揚感が僅かに感じられる。俺の方が有利でハンデが有り過ぎるといっても、それでも戦うのは楽しい。…暗殺者として育った俺にしては、少し捻じ曲がった価値観なのかもしれないけれど。
「それだけじゃねぇだろ?」
それでもやはり、体はもっともっと戦い独特の緊張感や、生き死にを分けるあの瞬間の高揚感を欲しがっていて。温すぎる戦いに小さく吐き捨てるように呟けば、体は勝手に反応していた。
ダンっと大きな音が立つくらいに地面を蹴って跳躍する。目指すは、隊の中心。
何回かに渡って着地と跳躍を繰り返し、一番偉そうな奴を見つけ出す。果たしてそれがさっき先頭の男が言っていた畠山氏当人なのか、それともそいつに命令されてこの隊を率いている奴なのかはよくわからなかったけれど、これを潰せば、この戦いは俺の勝利になる。
とはいえ、全方位を敵に囲まれるなんて普通から考えたら自殺行為だ。それでもその中に飛び込んだのは、俺が自分自身の力を過信していたのもあるし、それに何より、その過信はあながち間違いでもない。
ゲーム内で特殊技を使えるような強い奴は俺の知っている限り使用キャラのみだ。だとすれば今の俺に勝てる奴なんて早々居ない。
だから自分から窮地に足を踏み入れても、そこにあるのは恐怖よりも楽しさだった。
「この隊を率いてるのはお前か?」
そいつの眼前に着地して問い掛ければ、周囲からざわめきが発生する。でもそれは突然隊の中に進入した敵に対する攻撃的な姿勢ではなく、戸惑いだった。
まぁ当たり前だろう。自分の眼前に人間が降ってくるなんて、早々味わえるようなもんじゃ無い。
俺の問い掛けに、一番派手な兜の男の表情が変わった。と言っても兜に殆どを隠されている為に見えるのは目元と口元だけだったけれど、それでもその表情は確かに歪んでいた。
男は踵を返して逃げ出した。そしてそいつを守るように兵が立ちふさがる。
「あの方を討ちたくば我等を倒してからだ!」
その声にあわせて俺の周囲を取り囲んでいた兵士達が一斉に飛び掛ってきた。
一瞬にして動体視力が上昇し、周囲がまるでスローモーションになったように見えた。その中で、俺の体だけがいつも通りの動きができた。それだけ俺が早く動けているという事なんだろうけれど、まるで俺だけが別の時間軸で動いているようにすら感じられる。
突き出された刀をいなすと、空いている左手で一番手前の奴の肩を引っ掴む。そして秀吉よろしく思い切りそいつをぶん回し、周囲を一掃すると前に投げつけて道を開いた。
しかし人が密集しているせいかあまり先に進めない。予想外の事に俺は舌打ちをして、刀を下段に構えた。

