突然の言葉に訳がわからないというように眉をひそめ、それから三拍。政宗はまさかというように表情を変えて俺の顔を見つめた。
「お前が、何とかするつもりだってのか?」
「適役だと思ったんだけど?」
 おどけたように返せば政宗は僅かに戸惑う。俺の実力をすべて理解した訳でもない、ましてこの世界に来て間もない男を一人野放しにして何ができるかといったところだろう。実際俺もそう思う。
「あんまり考えてる時間も無いんだろ。豪族達が伊達軍の動く前に一揆討伐に出たらどうするんだよ。」
 俺の言葉に政宗は苦虫を噛み潰したように整った顔をグシャリと歪める。その結果は簡単に想像できたらしい。まぁ俺自身あんまり国政とかそういうのはよくわからないが、とりあえず内乱ってものは弱者の血と死体をもって終結するのが常だ。
 それは政宗の考える中での最悪のケースだろう。
「…わかった。」
 政宗はそう言うと玉座にピシリと座り直した。ただそれだけなのに政宗の纏っていた空気が凛としたものへと変化するのがわかる。
 俺は座っていた場所から立ち上がると政宗の真正面に座り、時代劇みたいに平伏して主からの指示を待った。
「菫。」
 存在感から漂っているそれよりも、もっと芯の通った凛とした声が俺の仕事の名前を呼ぶ。その途端に脊髄の辺りが痺れるような、それでいてむず痒いような、そんな感覚に襲われた。
 すべてを飲み込むような空気を取り巻くこの男に、俺は必要とされているのだと、そう痛感する。それがとても心地良い。
「お前は北の一揆の沈静化と、豪族達から彼らを守れ。犠牲は最小限にしろ。出立は明朝だ。」
「御意に。」
 おどけた感覚はすでに抜けていて。本気で俺に力を求める政宗に、俺も本気で答えなければ。そうすれば自然と言葉は敬ったようなそんなものになった。
「あと、。」
 名前を使い分けられて俺は咄嗟に顔を上げていた。自分の部下の菫のままで会話するんじゃなくて、俺自身に伝える為のようなそんな使い方に、きっと俺は間の抜けたような顔をしているに違いない。
 だって、今まで俺に仕事を頼む人は全員、俺が仕事を終えるまでずっと菫として扱っていたのだ。
 戸惑っている俺に気付いたのか政宗はフッと小さく笑みを浮かべた。そこに先程までの凛とした空気は無く、一人の青年が微笑ましく俺を見つめている。
「Partyはこのゴタゴタが終わったらに延期だ。」
「わかってるって。明日出発だっていうのに、流石に今晩飲む気にはなれないしさ。」
 ちょっとふざけたように返答すれば、政宗はニッと笑ってから頷いて見せ、それから少しだけ躊躇うような素振りを見せてから真剣なまなざしでこちらを見てくる。
「あと、無茶と無理はすんなよ。絶対だ。」
 玉座から立ち上がり、さっき俺が政宗にしたみたいに頭をクシャクシャと撫ぜてきた。その感覚はどこかむず痒く恥ずかしい。凛とした声に呼ばれた時とは違う変な感じがして、俺は思わず視線を政宗から反らしてぶっきら棒に返事をする。
「わかってるよ。」
 そんな反応をする俺が気に食わないのか政宗は俺の顎に手をかけるとグィと上に向けた。片方だけの金色の瞳が俺の目を見つめていて、視線を反らそうにも反らせない。視線を反らしたら最後、頭から丸ごと食われてしまうようなそんな気がした。
 力は俺の方が上なのかもしれない。というか、実際上だろう。あの時軽く手合わせをした時点で俺の方が力が上なのはわかっていた事だ。まして全種類の特殊攻撃が使えるという時点で俺は更に有利な立場になっている。
 それだっていうのに、今、俺は目の前にいる政宗に食われているのだ。
 一つの瞳に見据えられた。ただ、それだけで。
「わかってねぇよ。いいか?俺の許可無く怪我とかすんなよ。」
「そ、れは、菫の方だろうが。の俺はお前の物になんかなってない。」
 ずっと見つめられていたせいか、緊張で喉が張り付いて言葉が途切れ途切れになってしまう。そんな中、必死にかき集めた気力で政宗を睨みつければ、政宗はハァと一つ溜息をついた。
「菫は俺の物だから注意しなくたって自分を気遣うだろ。俺の物でも何でもない、自由なお前が一番心配なんだよ。」
 やっぱりわかってなかったと小さく呟かれ俺は困ってしまう。そりゃ、仕事の俺とフリーの俺とは別々って意味で自分を分けている自覚はある。でも根本は同じ人間でそうやってわざわざ仕分けする必要なんてどこにもない。
 菫の俺が体を気遣えば、俺自身であるの体を気遣うも同義語になるんだから。
「わかんねぇ。」
「だろうな、お前、わかった面してねぇし。」
 俺の言葉に半ば諦めたように政宗はそう言い放って再び溜息。まるで馬鹿だと言われているようなそのリアクションに悪態をつく前に、政宗は俺の頭をグシャグシャと力強く撫で回した。
「つまり、気をつけろって事だ。Are you OK?」
「Yes sir.まったく、最初からそう言えっての。」
 こういう部下思いな所が、政宗の人望の秘密なのかもしれないな。真剣に自分の事を心配されるって言うのは恥ずかしかったりするけれど、それよりも嬉しさの方が勝るものだから。
 …さて、一体いつまでこの体制なんだろう。首が痛い。
 それを訴えるように政宗を見上げれば、政宗はどうかしたかというように首を傾げてみせる。年齢とは見合わない、まるで子供のような動きに俺は思わず笑いを零す。
 政宗はどうして俺が笑ったのかわからずに更に疑問を頭上へと浮かべるのだった。