「自国を平和にさせてるだけでも十分だ。…今の俺にはその力すらねぇ。」
例えば、と言ってから政宗が自分の一番近い場所に置いた紙を指差す。そこにはつらつらと達筆な文字が踊っていて、一体何が書かれているのか俺には到底理解できそうになかったが、それを見ている政宗の表情から、それが悪いものなんだろうなという事は理解できる。
「俺の領地内、北の方で一揆が起きた。しかも、頭を務めているのがまだ年端もいかないLittle girlらしい。」
一揆、という単語で俺の中に出てきたのは銀髪の女の子、いつきだった。北の方で一揆、まして女の子が先頭をきって戦っているといったら、プレイキャラクターの彼女が頭に出るのはやはりゲーマーとして当然の事だろう。
でも彼女達が一揆を起こしているのは伊達の領地じゃなかったはずで。だとすればこれは違うものなのだろうかと、そんな事を考えていると政宗が苛立ちを消そうと大きく息を吐いた。
「奥州はまだ伊達軍に下ってない豪族がいる。表面上は沈静化して俺達に帰順を示しているが、俺のいう事は聞かずにやりたい放題を繰り返して…とうとう一揆が起きるまでになった。」
政宗はそれだけを言うと玉座の肘掛に頬杖をついてその文書を睨みつけた。頭を押さえるその指先に力が入って、白くなっているのが目に入る。
その横顔に浮かぶのは、苛立ちだ。それはきっとやりたい放題をして農民に一揆をさせるまで追い詰めた豪族に対する苛立ちだろうか。
そう考えていると、予想していなかった言葉が俺の耳に入ってきた。
「これは全部、俺の作ったscenario通りだ。」
苦々しげに呟かれたその言葉に俺は思わず政宗の顔をまじまじと見つめてしまう。それに気付いた政宗は眉間に皺を寄せて自虐的な笑みを浮かべて俺へと視線をやる。
「豪族達は伊達軍の傘下じゃねぇし、何より反乱の意志が高いから早めに潰す必要がある。だがそれを他国に知られれば伊達軍…ならびに奥州の内部の脆さを晒す事になる。その為には、第三者の戦乱が必要だ。」
「つまり…その豪族を排除する大義名分として、一揆が必要だったのか?」
簡単に言うならそういう事だろう。政宗は俺の問い掛けに一度小さく頷くと喉の奥で唸り声を上げた。それがその判断を下した自分への苛立ちから来るものなのかどうなのか、俺には理解できなかったけれど。
「あぁ。だが、一揆が起こった以上、俺達伊達軍は農民達に刀を向けなきゃならねぇ。」
それはそうだろう。例え理想が天下統一、泰平の世の中だって言ったって、刃を向けられた以上はそれなりの対応をしなければならない。それにここで優しく対応してしまえば、周囲の武将や国の者達にも付け入る隙を与えてしまいかねない。
力で起こった事象は力で解決する他無い。それが基本だ。戦乱の世なら尚更だろう。
とはいえ、政宗に彼らを切り捨てる決断をさせるのは辛いものがある。一番良い対応策としては、形式だけ軍を出し、その一揆の頭と交渉する事だろうけど、軍を出せば一揆の人は頑なになり、交渉が難しくなる。全面対決も免れないかもしれない。
それらすべてを理解した上で、政宗は豪族達の排除と奥州の権力の維持の為に農民達を犠牲にする事を選んだんだろう。
その決断が間違っていたのか、それとも正しかったのか。人の上に立つ輩からの仕事を受けた事はあっても、その理由も何も理解しようとせずに与えられた仕事をこなすだけだった俺には、全然理解できない。
でも、政宗が苦しんでいるんだろうって事はわかった。
「横暴を見ないふりをして、苦しませて、挙句殺そうって言うんだ。本来なら守らなきゃならないはずの、民達を。…俺から見れば、お前の住んでいた世界はparadise、本当の楽園だ。」
そう言うと政宗は悔しそうに下唇を噛んで口を噤んだ。
国を背負うものとして、自分の領地を守る為に下した判断と、民を守りたいという気持ちとがジレンマになって政宗を苛んでいるに違いない。
どうしたらいいんだろうと思う前に、体が先に動いていた。
隣で神妙な顔をしている政宗の、ツンツンしている割りには随分と柔らかい髪に指を通すように、優しく撫ぜる。泣いてる子供を慰める時と同じように、優しく、優しく。
「触んな。」
威嚇するようなドスのきいた低い声が俺に声をかけるけど、俺はあえて知らないふりをする。
農民達に刀を向けたくないと政宗が言うんなら、俺はそうなるように全力を尽くせば良い。政宗が動けば公式な出兵になってしまうけれど、俺一人が動くのだったらそれは非公式。ましてまだ俺の存在は武田以外の他国の奴らにも知られていないはずだ。
俺だったら、この現状を変えられる。
「なぁ政宗。」
「こっちは何とか被害を最小限にするideaを振り絞ってんだ。邪魔すんな。」
とてつもなく鋭い目つきで政宗が俺を睨みつけてくるが、それにびびってるようじゃこれから先俺は政宗の下でやっていけない。目を反らしたいという気持ちを何とか押しとどめながら俺はニッと笑いかけた。
「俺の名前を呼べよ。何の為に教えたと思ってんだ。」
一番最初に教えた俺の仕事の名前。政宗だけに使用を許したんだから、こういう時に使ってもらわないと。

