「Oh,何が何だかわからねぇって面してやがるな。」
二人の会話から完全においてかれた俺に、政宗がそう声をかけてくる。気を使ったつもりなんだろうが、生憎俺は大体の予想はついていた。
とはいえ余りにも得意げにそう言われると、否定するのが可哀想になってしまい、俺は仕方無しに頷いていた。
「俺と小十郎で賭けをしたんだ。内容は、お前が本気を出すか否か。」
やっぱりというか何と言うか。予想通りすぎて笑ってしまいそうになるのを必死に堪えながら、俺は小十郎を見た。小十郎は仕方ない、と顔にありありと浮かび上がらせながら口を開く。
「状況を把握し、己のやるべき事をわきまえるのは容易な事ではありませんが、それ位できなくては政宗様のお傍で働かせる事はできませんので。」
淡々と述べるその顔は仏頂面もいいところだ。まぁ、服の着替えを誇らしげに語るほどの政宗フリークな小十郎にとって、俺に政宗を取られたようなそんな感じがするのだろう。
政宗が嫁を娶った時の小十郎の凹み具合が見ものだな、この溺愛ぶりは。
「で、お前は見事に合格したって訳だ。」
まるで気に入りの人形の如くずっと俺を放さない政宗。こういうスキンシップを多用するのも英語の影響かと思いながらも抵抗はしない。
ゲームでは絶対に見られない、子供のような反応をする政宗をもう少し楽しんでおこう。
「で、俺は一体どんな仕事をすればいいんだ?」
まぁ元が暗殺業だから忍びとかそんなものだろうか。と言っても佐助みたいに気配を消したりとかあんなに素早く動いたりとかできな…いや、できるのか。今の俺なら。
じゃあやっぱり忍びなのかなと思っていると、政宗はにっこりと笑みを浮かべてから俺を抱きしめる腕を放してがっしりと肩を掴んだ。
「俺の武器となり防具となれ。それが菫、お前の役目だ。」
菫、と仕事名を呼ばれた瞬間に俺の頭が一気に冴え渡るようなそんな感覚に囚われた。いつもの俺の頭から仕事用の頭に切り替わる。
それに気付いたのか小十郎が一瞬腰を浮かした。いつもの俺とは違う本気の部分に警戒してか、その左手は自分の前を通り刀の柄へ触れる寸前で止まっている。不穏な動きをしようものならその剣が抜き放たれるだろう。
政宗はそんな小十郎に気付いたのだろう、視界には俺しかいれていないというのに手をフィとあげて小十郎を制した。小十郎も何も言われていないのにも関わらず手を下げる。
「まぁ簡単に言えば、俺の直属の武将として仕えてもらうって事だ。」
「Yes sir.」
服従の変わりに肯定を示せば政宗は満足そうに頷いてから、ちょっと困ったような顔をしてこちらを見てくる。その顔はどこか子供染みていて、先程までの威厳も一瞬でかき消されてしまう。
「それからとしてのお前にも頼みがある。」
本名を言われて俺は戸惑った。菫と呼べばどんな命令だって聞くつもりはあるというのに、あえてそう呼ばれるとなんだか変な感じがする。
一体何を言われるのだろうと思って身構えていると、政宗は予想もしていなかった事を口にした。
「お前の今まで生きていた世界を教えてほしい。海の向こうの話より楽しそうだ。」
純粋な瞳で見つめられ、俺は一瞬息を止めた。まるで人に純粋に懐いてくる仔犬のような瞳にぐっと来てしまう。心臓を鷲掴みにされた気分だ。
お、落ち着け。忘れているけどこいつはSだ、サディストだ。俺が抵抗するのを防ぐ為に息子を脅しに使うような男なんだぞ。
自分自身にそう言い聞かせるも政宗の探究心は純粋らしく、俺はそのキラキラと輝く瞳に耐え切れずにがっくりとうなだれた。
「わかった。俺のわかる範囲で説明するよ。」
そう言った瞬間、何かに負けた気がしたけどきっと気のせいだろう。というか、気のせいにしよう。
「よっし、そうと決まったら早速話してもらうぜ!」
「執務が終わってからになさって下さい。」
意気揚々といった感じで口を開いた政宗の言葉尻に乗せるように、小十郎が淡々と言い放つ。それを聞いた政宗が不満そうに唇を尖らせて小十郎に顔を向けるが、小十郎はそれがどうしたと言わんばかりに政宗を睨みつける。
二人のにらみ合いは数分にも渡ったが、最後に音を上げたのは政宗の方だった。
「OK,OK!やりゃぁいいんだろ!」
大げさに肩を竦める仕草をするその瞬間、俺はその腕からそっと離れる。暫くぶりの自由に感動していると、政宗はその代わり、と言いながら俺の肩をがっしりと掴んできた。
その時に浮かべられた笑顔が何かを企んでいるようなものであったのに気付いて、慌てて誰かに助けを求めようとするもこの部屋には政宗と小十郎しか居ない。でも小十郎なら政宗を止めるには十分だろう。
あの睨み合いに勝ったんだから、政宗の無茶だってきっと鶴の一声で制してくれるに違いない。
「執務はやる。但し、の話を聞きながらだ。」
やっぱりというかなんというか、政宗は諦めていなかった。執務片手に俺の話を聞くつもりらしいが、俺の頭だったら同時に二つの事をやるなんて頭の中がごちゃごちゃになってしまう。

