眉間狙って突き出される槍を手で払いのけると同時に、俺を取り囲むようにしていた槍部隊が胴目掛けて槍を突き出した。
「危なっ!」
 そりゃ体力はあるけれど、痛みに関しては普通の人間と大して変わりはしない。何とか回避したいが槍は全方向から突き出されては逃げ場も無い。強いて言うなら上か下か、どちらかだ。
 俺は咄嗟に飛び上がっていた。ジャンプというよりは最早飛翔した、と言ってもおかしくないくらい、俺の体は高く跳躍し、さっきまで俺のいたところへと突き出された槍の先端に乗る。
 まるで牛若丸のような軽快な身のこなしに、俺は勿論皆が呆然としてその状況を見つめている。
 どよめきがそれから一拍おいて集会場を包み、その音に皆が我に返る。それは俺も同じだった。
 ハッとして我に帰り、この状況からの攻撃法を一瞬の内に考える。答えが出る前に体は既に反応して、槍の先から再び跳躍すると俺を取り囲んでいた奴らの肩に着地する。
 その重さで崩れるように倒れる奴を足蹴にして、次の奴へ。人の肩の上を跳ねて歩き、俺はそのまま前進する事にした。地べたを走って前に進むより、こちらの方が邪魔も少ないだろう。まして走るだけで攻撃になるなら一石二鳥だ。
 そんな俺を叩き落そうとする棒をすり抜け、やっと半分まで行ったと思ったその時、俺の目の前を白くて細長い布が舞った。ゆらとたなびくそれは力なく落ちていく。
 何かわからないが実害もないと思って素通りしようとした瞬間、その布はまるで意志を持ったように俺の脚に絡み付いてきた。
「のわっ!」
 そのまま俺は地面へ叩きつけられそうになり、慌てて受身を取って体制を整える。と、そこには抹茶色の特攻服に身を包んだ細身の男が立っていた。細い一重の瞳は柔和な笑顔に彩られている。
「手荒な真似をして申し訳ありません。すみませんが、小生とお手合わせ願えませんか?」
 彼の言葉はとても優しく、伊達軍には珍しいタイプと言えるだろう。とはいえ、もしかしたら小十郎みたいに突然ブチ切れてしまうのかもしれないし、油断はできないな。
 それにこの人、伊達軍の中でも中々にいいポジションの人に違いない。その証拠に、この人が俺に声をかけた途端に俺を狙っていた周囲の伊達軍の面々が身を引いている。
 俺の脚に絡み付いていた布がはらりとはがれ、まるで蛇のようにシュルシュルとその人の手に戻っていく。
「小生はこの伊達軍で主に経理を担当しております、鬼庭綱元でございます。以後お見知りおきを。」
 経理担当といわれて俺は首を傾げた。どうしてそんな人がこの場にいるんだろう。
「本来なら経理はそろばんと仲良く日向ぼっこがお仕事なのでございますが、」
 日向ぼっこは仕事じゃ無いと思うんだけど、果たしてどうなのだろう。チラと周囲を窺えば、皆が皆それは違うだろうと言いたそうな顔をしていた。
「政宗様直々に伊達軍へと呼ばれた人物…一度手合わせ致したく、参上した次第です。」
 にっこりと笑ったままの顔だというのに、最後に放った言葉と共に纏った空気が変わり、凛とした空気が鬼庭さんを包み込む。
「皆、下がりなさい。巻きぞいになっても文句は受け付けませんよ。」
 グイッと足元を引っ張られる感覚と共に、建物の中だというのに鬼庭さんを中心に発生し始めた風。どうやら風の特性を持っているらしい。
 だとすれば先程の包帯のような布が自ら動いていたのは納得できる。風の特性を使って布を自分の意のままに操ったのだろう。だとしたら、鬼庭さんの攻撃方法は先程と同じ布か。
 タン、と鬼庭さんが足を踏み鳴らすと同時、包帯のような布が風に乗ってこちらへ飛んでくる。それを振り払うように左手で軽く払おうとすると、クルンと包帯が巻きついてきた。
「捕縛成功。」
 口の端を吊り上げて笑う鬼庭さんの後ろ、一瞬黒いオーラのようなものが見えたのは気のせいでは無いだろう。やはり伊達軍にはマトモな人がいないらしい。
「その程度…ではないですよね?」
 口元に浮かべられた笑みは蔑み。半分が挑発、半分が本気と言ったところだろうか。政宗は物凄く周囲の人に愛されているらしいが、どうしてこんな風に盲目的な奴らばかりなんだ。
 小十郎といい鬼庭さんといい、新入りの俺に対して厳しすぎる。
「さぁて、どうだろ。」
 やっぱりここはガツンとやった方がいいんだろうな。思い切り…とまでは行かないけれど、とりあえずぎゃふんと言わせないと。
 俺の第一印象は勿論、そんな俺を伊達軍に入れると決めた政宗の威厳すら危うい事になってしまう。
「そんなんで俺を捕らえた気?」
 挑発的に言い捨てると、俺は自由な方の手をぐっと握り締める。そしてそのまま床に向かって手を開いた。
 途端に閃光が周囲を包み、俺の体が消える。正確には見えなくなった、というのが正しいだろう。使ったのはいわずと知れた佐助の、あの技だ。
 唯一俺の場所を特定する包帯は具現化した炎で焼ききり、床へと落とす。これで俺の居場所は誰にも把握されていないはずだ。
 目の前の鬼庭さんを除いては、だけれど。