5.
 城の敷地の一番端。学校の体育館の長さを二倍にしたような広い建物がそこにあった。大きな扉の上には、なにやら筆で書かれた三文字の看板。おそらく集会場とでも書いてあるんだろう。
「扉、開けていいのか?」
 俺の問いに小十郎は頷いた。しかしその顔が意味ありげに笑っている。それに気付いた俺は何があっても驚かないようにと心に決めてから扉を開けた。
 その俺の目に飛び込んできた光景は、ヤンキーの群れ。そうとしか表現できないその光景に俺は口をポカンとあけていた。圧巻としかいえないリーゼント、カラスマスク、特攻服。
 そいつらは俺を見てから、集会場の一番奥、壇上の中央で仁王立ちしている政宗を見た。
「筆頭ォ、コイツ強ぇんですかい!?」
「女みてぇな面じゃねぇか!」
 誰かの言葉に一同が笑う。
 とりあえず今笑った奴全員殴り飛ばすと心に決めて、内心の苛立ちを中にしまいこんでから俺は大きく息を吸い込んだ。
「人を見かけで判断するんじゃねぇ。痛い目見るぞ。」
 腹に力を込めて言えば、シンと辺りが静まり、俺をからかうようだった奴らの反応が一気に変わった。
 戦いに身を置くからこそわかる、本気とふざけの狭間。俺が僅かに本気を出して、その本気に奴らは応じた。どうやらそれを見抜くだけの力量はあるらしい。
 それを見て壇上の政宗がクツクツと笑う。その声がやけに広い会場に響き渡り、ヤンキーの群れは一斉に政宗へと視線を向けた。
「コイツが新しく入る男だ。皆、準備はいいか!?」
 オォォオ!!と、地面が揺れるほどの雄たけび。一体何の準備かと身構えれば、俺の斜め後ろで一部始終を見ていた小十郎が声をかけてくる。
「伊達軍恒例の度胸試しだ。新しく入った奴は必ず、この集会場の入口から一番奥の政宗様の元へ向かう。それを伊達軍全員が全力で止める訳だが…勿論、辿り着かなくとも伊達軍入隊を取り消しはしない。あくまで腕試しだ。」
 本当にヤンキーみたいだなと感心する反面、俺は少し体が疼くのがわかった。
 暗殺業で人を殺す事をまぁまぁ沢山やってきた俺は、こんな風に正々堂々と人と戦う事なんて滅多にしない。隙を狙い、相手が攻撃する余地を与えない攻撃は簡単にカタがつくが、逆に言えばそれでお終いなのだから。
 やっぱり楽しめないじゃないか、そんなの。こういう風に手合わせする方が楽しいと思う。
「お前が名乗りを上げたら始まりだ。まぁ、政宗様が認めた奴だ、せめて三分の二までは辿り着くんだな。」
 小十郎の声がどこか遠い。口がゆるりと持ち上がる。
 それに気付いて俺は危ないと理性を持ち出した。本気を出す前の時点で政宗と互角だった俺だ、きっとここで本気を出してしまったら地獄絵図もビックリの凄惨な風景が広がる事は目に見えている。
 楽しく、楽しく、あくまでもお遊びで。
 そう言い聞かせてからゆっくりと息を吸い、俺は遠くでこちらを見ながらニヤニヤと笑っている政宗を見つめた。
「辿り着けばいいんだろ。あんたの所まで。」
 互いの目が合う。金色の瞳がゆらりと揺らいでそのまま細められる。無言で、そんなの簡単だろうと問われたような気がして俺は頷く。
 それに気付いた政宗が驚いたように目を丸くしていたから、もしかしたら本当に心の中でそう問いかけていたのかもしれない。
、いざ。俺を討ちたきゃ全力で来いよ。」
 俺が名乗りを上げると伊達軍の面々が一気になだれ込んできた。と言っても入口付近の為、前方のみから猪の様に突進するしかできないらしく、先頭を切っている奴に足をかければドタドタと将棋倒しになっていく。
 一番下の奴は果たして無事なのだろうかと、山のようになった人々を見上げた。
 戦いの邪魔にならないようにする為か、敗退者は集会場の壁際に行くのがルールらしい。倒れた奴らはすごすごと壁際へ向かう。走ってきただけで終わりとはなんとも情けない。当人達もそう思っているのか、しょ気たように壁に向かって落ち込んでいた。
 その様子をのんびり見ていたら、右から空を切る音が聞こえ、咄嗟に後ろへと避ける。そんな俺の目の前を誰かの拳が通りすぎ、今度は左から来た上段蹴りを屈んでかわす。そのまま左右に足払いを決め、立ち上がれば目の前にガタイの良いオッサン。
 掴みかかろうとする手をとって、ハンマー投げのように一回転すれば、面白いように周囲の人間達が飛んでいく。
 本当ならそのままオッサンを前方に投げ捨てれば道が開けるんだろうけど、それは余りにも可哀想だから地面へとそっと置いてやる。しかし目が回ったのかそのままオッサンはばたりと倒れてしまった。
「あちゃー…後で小十郎に怒られないといいけど。」
 まぁ、どうせ最初の将棋倒しで怒られるのは確定だろうけど。と考えながら次々襲い掛かる伊達軍の人々をいなし、進んでいく。
 本気を出せば政宗と対等…いや、それ以上の力を持っている俺にしてみれば、こんなの簡単だ。
 しかしそんな事を考えていたのもつかの間。目に映る風景がさっきと徐々に変化していることに気付いて俺は眉間に皺を寄せた。
 一体何が違うのかと思っていると、俺の目の前に訓練用の木でできた槍の先が突きつけられた。
 なるほど、武器を持っているのが違いだったのか。まだ半分も行っていないのにこれじゃあ、後半は本物の武器を使われるかもしれない。