「じゃあ小十郎は、」
「野菜作るのが好きで、野菜の中ではゴボウが一番好きなんだろ?」
ゲーマー舐めんなっての。しかも伊達軍は俺の一番のお気に入りなんだからなっ!ついでに言うと二番は長曾我部、三番は慶次。どれもノリの良さが好きだったりする。特に長曾我部軍のアニキコールには本気で参加したいと思ってるしな。
…って、今BASARAの世界にいるんだから、もしかしたらいつかできるんじゃね?
頭の中でウキウキしていると、成実は自分を構ってくれない俺に痺れを切らして廊下から部屋へと入ってくる。そして俺の目の前に座るとズイッと上半身を乗り出してきた。
「なぁなぁ、構って?」
小首を傾げるその仕草。小さい女の子がやったら可愛いんだろうが、如何せん大の男がやったら気持ち悪い。俺は反射的に成実の近付いた頭を軽く叩いた。
叩いたにも関わらず成実が嬉しそうなのは、構ってもらえたっていう顔を見ればよくわかる。
「何だか動物みたいだな。」
悪戯していた時のあくどさを全く感じさせない、悪戯されても健気に喜ぶ犬みたいな雰囲気に、俺は和んでその頭をガシガシと撫でる。
小十郎といい政宗といい、伊達軍の奴はギャップが売りなのかと思う程の成実の変貌に思わずほだされそうになったその時。
頭を撫でていた俺の右手を成実が握り、そしてニヤリと黒い笑みを浮かべた。その時俺は漸く先程までの動物のような仕草が演技だという事に気付いた。
「俺の動物みたいな仕草に癒されただろ?」
あんな演技が見破れないなんて、俺にしちゃ随分気が緩んでたみたいだ。まぁ、悪戯好きな奴にはここらで一発、痛い目でも見てもらった方が…と、右手を引いて成実をこちらへ引っ張る。
自分自身忘れていたが、俺の力は戦う気になれば政宗とやりあえる程だ。その力で引っ張れば難なく成実は重心が崩れる。
「うわ…!」
向こうが体勢を崩したらこっちのもの。後は自由な左手で近付いた成実の肩、腕の付け根の辺りを掌で押せば脱臼する。ちょっとは痛いだろうが良い薬だ。
一瞬やりすぎかとも思ったが、躾はこれくらいじゃ無いとと思い直して左手に力をこめようとしたその時だった。
「成実、準備放り出して何処行きやがった!」
小十郎の声が一喝。
城中に響き渡らせるんじゃないかという大声に、成実はおろか、俺まで動きが止まってしまう。一度止まってから再び脱臼させようとするのも面倒になり、俺は成実の肩から左手を離した。
するとそれを見計らったかのように小十郎がこの部屋に現れた。
「成実…今なら許してやる。早く準備に戻りやがれ。」
ヤのつく職業のお兄さんも、きっと土下座して謝るくらいドスの効いた脅しに、成実は文字通り縮み上がった。そしてすぐに飛び上がって立ち上がると、脱兎の勢いで廊下を走り去って行ってしまう。
その背中を見ながら、俺は布を持って入ってくる小十郎に声をかける。
「で、どこまで聞いてた?」
見計らったような、では無く小十郎はそのタイミングを見計らっていた。そりゃそうだろう、政宗と俺とのあの会話を聞いてしまったらその後ノコノコ現れるような事もできない。
マークすべきは成実じゃなく、小十郎の方だ。
「一体何の事だ、と惚けても無駄か。いつから気付いていやがった。」
「女中さんがお膳下げた少し後、政宗が来た時にはもう居ただろ。」
俺に会いに来た政宗に気付いて隣の小十郎の部屋に身を潜めたのだろう。
「あぁ…悪いとは思っていたが、ついな。」
咄嗟だったんだろう。まして俺はまだまだ胡散臭い存在である事に変わりは無い。だとすると小十郎の判断は正しかったんだと思う。
とはいえ、あの話を聞かれていたのは問題だ。ただでさえ信頼されていないって言うのにあんな話し…俺が他の世界から来たって話をしていたのを聞いたら、更に疑われるのは目に見えていた。
「…胡散臭い、だろ。」
俺の言葉に小十郎は否定も肯定もしないで、女中さんを呼び、何やら他の布を貰っていた。それを受け取ってから戸を閉めるとこっちに向き直る。その目を見てもその心を推し量る事は出来ない。
小十郎は伊達にこの戦乱の世の中を生きていた訳ではない。心や考えを封じる事など朝飯前だろう。
「着付けてやる。まずはその訳のわからない衣服を脱げ。」
まるで何事も無かったかのように小十郎がそう言ってくる。俺はその言葉に頷いてブレザーのボタンを外すも、そんな小十郎の態度に納得ができずに怪訝な表情でその顔を見やる。
それに気付いたのか小十郎は俺と同じように怪訝そうに眉を寄せた。
「何だ、見られて恥ずかしいのか?」
ちょっとズレた言葉に、俺はフッと小さく吹き出すように笑ってから首を横に振る。
「なんつーか…普通さ、怪しいとか思わない?俺は他の世界から来た人なんですって言ったら、頭が正常かどうか疑問に思うだろ。」
「元々怪しいんだから、今更だ。」
あっけらかんと言い放たれると、気負っていたものが一気に抜けていく。政宗だって未だ納得しきれていない事象に、そんなに簡単に結論を付けられるなんて、やっぱり年の功か。

