でも政宗が外国を知っている人でよかった。そうじゃなかったら、俺は危うく外国人になってしまうところだった。
「世界って言うのは俺達が生きているこの世界、それ一つだって意見と、他にも沢山他の世界があるんじゃないかって意見がある。」
「で、お前は後者の意見である、沢山ある世界のうちのどれかからこっちの世界に来た…って事か。」
そこまで説明しきれていないし、俺自身が次元とか世界とかいう単語の雰囲気はわかっていても、上手く説明できるほど理解している訳じゃ無い。それでも政宗はすぐに理解してくれた。
さすが柔軟な発想を持っている政宗だ。異国好きなのは伊達じゃないな。
「そういう事。でも、今まで俺達の世界は一度も繋がった事がない。その証拠に政宗達は世界って概念すら知らなかった。それなのに俺はこうやってこっちの世界にいる。」
それはおかしい事だと政宗も気付いたのだろう。眉根を寄せると軽く握った手を顎の辺りにやって真剣に考え込んでいる。
そう、もしこれが次元を超えたトリップだとするならば、俺達の世界と政宗の世界が通じていなければおかしいのだ。世界を部屋として例えるなら、中に入ったり、他の部屋とを行き来する際には、必ず扉が必要になる。しかしそれらは今までの経験上存在していない。
だとしたら俺はどうやってこの世界に入ってきたのか。
ちっぽけな頭を振り絞ったけれど、簡単に答えは出てこなかった。
「…話がそれちまったな。とりあえず俺は他の世界から来た。だから政宗がどんなに調べようとも俺の素性やデータは一切出てこなくて当然なんだ。わかってもらえたか?」
確認するように問いかければ政宗は頷くしかない。そして突拍子の無い俺の言葉に頭をガシガシと掻いた。混乱した頭を静めようと必死になっているのが見ているだけでわかる。
「嘘…じゃねぇな。それ位見りゃわかる。…でもよ。」
理解はしているけど、納得できていないんだろう。まぁ俺だって突然こんな事を言われたら、思いっきり戸惑って頭の中がグチャグチャになってしまうだろうし。
「内容が内容だしな。そんなにすぐ信用できるもんじゃねぇよ。」
言外に気にするなといえば、政宗は首を横に振る。
「俺は信用してるぜ。お前が異世界の人間なら、俺達双竜の攻撃を真似したって言う異常事態も納得できる。ただ…」
らしくない、すまなそうな顔の政宗に俺は内心たじろいだ。信じると言ってくれるだけで十分に嬉しいのに、どうしてこんなにすまなそうな顔をするんだろう。すぐに理解できるような事じゃない位、俺だってよくわかっている。それなのに政宗はそれすら後ろめたいらしい。
「少し、時間をくれ。」
「わかってるよ。」
そう簡単に信じられる話じゃ無いし、頭っから否定する事だってできる。それなのに政宗は俺を信じようとしてくれている。その姿勢だけで俺は救われるような思いだった。
「ありがとな、政宗。」
俺が笑顔を向けると政宗は突然俺から目を反らした。一体何だと思ってにじり寄ると、下を向いたまま物凄いスピードで後ずさっていく。その際に、俯いたままのその耳元が僅かに赤くなっているのが目に留まって、俺は漸く合点がいった。
こいつ、照れてる。
小十郎といい、政宗といい、可愛いリアクションしてくれるなぁ。
「政宗ぇー。」
「な、なんだよ。」
俯いたままモゴモゴと口ごもる政宗に近付こうとすると逃げられる。だからそんな反応をする政宗にニヤニヤと笑いながら俺は声をかけた。
「照れんなよ。」
俺の言葉に政宗はガバッと顔を上げ、まるで逃げるように一目散に部屋の外へ出て行ってしまう。その顔が真っ赤だったのに気付いた俺は、流石にからかいすぎたかなと思いながらその背を見送ると、赤茶色の髪が政宗の去っていった方と逆の方向から現れた。
「成実、何見てんだよ。」
俺の質問に成実はにっこりと笑みを作ってからわからないというように首を傾げた。
「んー何も?」
食えない奴だ。本当は今までの言動を見てたくせに。
とはいえ、成実がこちらを覗いていたのはついさっきで、政宗が照れ始めた位の時。政宗に素性を話していた時には成実の気配はしなかった。だから別に成実はマークしなくてもいいだろう。
成実は政宗の去っていった方を感慨深げに見つめている。
「梵はね、感謝の言葉が好きなんだよ。で、それと同じくらい、人の喜ぶ顔が大好きなんだな。」
子供っぽい口調とは裏腹に、どこか大人びた成実の声。政宗が行った方を見ている目は、子供の成長を見守る親のそれに似ていた。
しかしそんな良い雰囲気をぶち壊すような気の抜けたような台詞を成実は続けた。
「で、俺は動物が大好き。」
「知ってる。」
興味ないというように冷たく即答すれば、成実はつまらなそうに唇を尖らせる。とはいえそれは表面上。不満そうな様子を演じて構って欲しがる子供が俺の目の前にいた。

