「お前は外交を行っていた両親と共に幼い頃外国へ行き、そこで育つ。Engliishが使えるのはそのせいだと言えばいい。大人になり日本に帰る船に乗るも嵐で転覆。近くの村人に助けられ一命と取り留めるも家族を失う。その後行商などの用心棒として各地を放浪、先日の伊達と甲斐の戦に巻き込まれていた所を俺に保護された。…以上だ。」
 俺は政宗が与えた素性の設定を頭に叩き込む。
「昔の事を聞かれたら、事故の後遺症で記憶があやふやだとでも言やぁ良い。」
 なるほど、そうすれば下手に嘘をついて話が食い違うような事があってもそれで言い訳できる。とはいえそんな風に言い訳が必要になるような事なんて早々無いと思うけどな。
 俺は目の前に座っている政宗を見た。先程俺を捕らえて遊んでいた時とは違う雰囲気は、奥州筆頭という存在の威圧感から出ているものだろう。
「なぁ、政宗。」
 政宗は好奇心と計算で、こんな素性の知れない俺を軍へと迎え入れた。もし好奇心だけだったら俺を疑うような事はあっても俺の素性を調べはしない。しかし計算が入っているなら話は違う。
 一体今まで何をして生きてきたのか、どのような経歴があるのか、それらを事細かに調べているはずだ。
 そして政宗は俺に関するデータが全く無い事に戸惑っているに違いない。
「俺の事、知りたいか?」
 俺の言葉に政宗はピクリと片眉だけを上げた。しかし反応はそこまで。
「どうせ調べても何も出ないから無駄だと思うけどなぁ。」
 再度声をかけてもノーリアクション。でもその目だけは違った。
 俺が政宗を探るのと同じく、政宗も俺を探っている。どうしてそんな事を言うのか、見極めようとしているんだろう。でも生憎、俺には計算なんてものは存在しない。政宗が気にしているんなら教えようと思っているだけで、他に意図するものなんて何も無い。
 それに気付いたのか政宗はふぅと大きく息をついた。
 途端に政宗の雰囲気が緩いものへと変化する。
「聞かれたくねぇんじゃねぇのか?そんなに隠してやがるくせに。」
「隠してなんか無いし。」
 そりゃ一回言うのを躊躇ったけど、それは隠したんじゃなくて上手く説明できる自信が無かっただけだし。
「お前の事は黒脛組に調べさせてもらった。甲斐や上杉、北条の忍び程じゃねぇが、ウチの忍びもなかなかに良い腕をしている。なのに、有力な情報一つ手に入らねぇ。それどころか、お前の目撃情報すら見つからない。、って苗字も全国から洗ったがな。」
 忌々しそうに政宗がそう言う。思った通りに情報が集まらない事への苛立ちが目に見える。
 でもそれは当然だ。なんてったって俺は元々、この世界の人間じゃ無いんだから。
「お前、一体何者なんだ?」
 躊躇い、いぶかしみ、好奇…。政宗の顔に写るそれらの中でも一番強いのは言い知れない恐怖だ。
 人って言うのは自分の知らないものを怖がる。だから知識を広げてその恐れを減らそうとする。今の政宗はまさにその状態だった。だからその恐怖を取り除くように、俺はできるだけ優しく、そしてゆっくりと言葉を紡いだ。
「信じるか否かは政宗の自由だ。…俺は、こことは違う世界から来た。」
 政宗は暫くキョトンとしていたが、信じられないというように目を見開いてから、あたかも聞き間違ったかのように返してくる。
「Ah…つまり、他の国から来たって事か?」
 逃げようとする政宗の言葉に俺は首を横に振って再度説明する。今度は詳しく、逃れようの無いように。
「俺は他の世界から来た。外国とかそんなレベルじゃなくて、次元とかの方の世界だ。わかるよな?」
「次元…?」
 俺の言葉に政宗は訳がわからないというように首を傾げる。てっきりわざと逃げていたのだと思っていた俺は呆気に取られてその様子を見ていた。
 そうか。冷静に考えれば、戦国時代にパラレルワールドなんて世界観がある訳が無い。つまり俺はまずその説明から始めなくてはいけないのか。
「世界っていうのは、国よりももっと大きなもので…えっと、ほら政宗、空見えるか?」
 説明の仕方を考えながら、俺は空を指差した。政宗は誘導されるままに空を見上げる。その横顔を見据えたまま、俺はできるだけわかりやすく説明をしようと口を開く。
「この空の下が、一つの世界だとする。」
 まぁ本来ならもっと大きなスケールの問題だけれど、政宗達の時代の知識から考えれば、宇宙とかそんなレベルの話をしても埒が明かない。だから地球一個を世界だと説明した方が早いだろう。
「海の向こうの国も纏めて考えるのか?」
「あぁ、全部だ。」
 俺の言葉に政宗は驚いたように目を丸くしてから俺の顔をまじまじと見つめた。日本を統一する為に心血を注いでいる政宗達から見れば、海の向こうの世界まで一つのくくりとして考えるのは、とんでもないスケールの話しなんだろう。