4.
何とかあの二人の誤解を解く事に成功した俺は、ちょっと遅くなった朝御飯を食べていた。領主ですよって感じの豪勢な食事が出るのかなとか思っていたら、一汁一菜というのか、とても質素なご飯が出てきたのでちょっとがっかりだ。
でもシンプルながら素材のうまみが引き立っていて、とてつもなくうまい。あっという間に平らげると、両手を合わせて頭を下げる。
「ご馳走様でした。」
「早いな。ちゃんと味わったのか?」
俺に与えられた部屋の前をたまたま通りかかった小十郎が俺の言葉に振り返る。さっきから部屋の前を行ったり来たり、何だか忙しそうにしているんだけど、一体何があるんだろうか。
「勿論味わった、味わった。すっげぇ美味しかったぜ。」
満面の笑みを浮かべれば小十郎は強面な顔を嬉しそうに少し緩めてそうか、と呟く。予想外の事に俺はちょっと驚いてその表情を見ていた。それに気付いた小十郎が顔をしかめっ面へと変化させるが、先程の表情を見ていたのでそれが照れ隠しのように思えてしまう。
「この後、お前を紹介する集会を行う。食い終わったら俺が着付けをしてやるからな。」
ぶっきら棒に小十郎がそう言って、俺が声をかける前にそそくさと逃げてしまった。
ちょ、何だこの可愛いリアクション!これが所謂ツンデレって奴か?それとも順番的にはデレツンなのか?
「着付けって…この服はやめろって事だよな。」
流石に制服のままじゃ違和感あるんだろうな。それにずっと着てたせいか、制服はかなりヨレヨレで汗臭い。しかも政宗に襲われた、というか筋肉検分をされた時のあの皺くちゃ加減も酷い。
まぁ集会というからにはやっぱり正式な格好をするんだろう、と思って首を傾げる。あんな特攻服を着てリーゼントな人達に、正式という概念は在るんだろうか。
「失礼します。」
女中さんがそう言って入ってきてお膳を持つ。俺はその手を止めさせて首を横に振った。どうせ小十郎はまだ忙しいだろうから当分来ないと思うし、だったら何かやる事が欲しかったから手を伸ばした。
「いいよ、俺やるって。」
「いえ、その様な訳には参りません。それにそろそろ殿がお迎えにあがる頃だと思いますよ。」
笑顔を向けられてそう言われてしまえば俺は頷いて、邪魔をした事を謝った。女中さんはいえいえ、いいんですよ。ありがとうございますと優しく声をかけてくれる。そしてきちんと背筋を伸ばしてお辞儀をすると足音をたてずに去っていった。
その背中を視線だけで追いかけると、廊下を政宗が歩いてきた。着流しではなく、ゲーム内の服装を軽くしたようなものだ。伊達軍の特攻服、とでも言うべきだろうか。
「よぅ、今暇か?」
軽く片手を挙げて声をかけると、政宗は俺が返事をする前に部屋に入ってきて俺の前に座った。
「暇も暇だけど。何か用?」
俺の問い掛けに政宗は胸元からごそごそと紙を取り出して差し出した。和紙、いや半紙に墨で何やら書いてある。それがあまりにも達筆すぎて俺は眉間に皺を寄せた。
そして俺は気付いた訳だ。このゲームは戦国時代をモチーフにしているから、文字がその時代のままなんだという事に。
ってかあんだけ時代考証を蹴っ飛ばしてるくせに、こんなところだけ忠実に再現してんじゃねぇ!
「あ、あのさぁ政宗。」
心の中でシャウトしながら俺はチラリと紙から顔を上げる。政宗は俺がその文字を読めるのを前提で話を進めてきた。
「それがお前の新しい肩書きになる。真実を話せない以上、嘘をつくのは仕方ねぇ。」
ここで文字が読めないって言ったらからかわれるかもしれないけれど、ここで読めるふりをするのはあまり得策じゃ無いだろう。それにこの先、文字を使う場面は必ず出てくる。ばれるのは時間の問題だ。
「あ、あのさぁ政宗。」
「An?何か不都合でもあんのか?」
俺が折角考えてやったのに、と顔にありありと書いてある政宗に俺は首を横に振った。ここで否定しないとまた酷い目に合わされそうだ。
「そうじゃなくてさ、俺…文字読めないんだ。」
てっきりサド政宗の事だから、文字が読めないなんてとからかってくるかと思いきや、そうかと小さく一言呟いただけでそれ以上言及する事は無かった。
「Englishは書けるのか?」
「大体は…」
日本語がこれだけ変わっているなら英語も結構変わっているかもしれないと思ったが、アルファベットはデザインが単純だから大して変わらなそうだと考え直した。
「わかった。音読してやるから一回で覚えろ。」
一回かよ。と内心突っ込みを入れたが、そういうのは得意な方だ。暗殺依頼は証拠が残らないようにと口伝が多い為、人の言った言葉を覚えるようにと、まずは暗記を叩き込まれる。
「じゃあ頼む。」
そう言って紙を返すと、政宗は前置きも無く読み始めた。
だけど俺は聞き逃すなんてへまはしない。暗殺業たるもの、主から与えられるデータに対しては人一倍過敏でいなくては。

