「…あれ?」
「What’s?」
 一番最初に口を開いたのはシゲだった。そして続くように政宗。俺も驚きを隠せない。
「今の、」
 影潜り、だよな。佐助の技の。
 トスンと着地してその痺れに顔をしかめるが、政宗が良く揉んでいたお陰で治りが早い。十二分に回復した足の裏で床が壊れていない事を確かめながら俺は今の事を思い出していた。
 俺、特殊能力だけじゃなくて技も使えるのか。
 そっか、そうだよな。オープニングの伊達主従の使ってるあの技だって、結局は特殊能力の入った『技』だもんな。
「何やったんだ?今、床に潜ったよな?」
 シゲと政宗が好奇心に満ちた目で俺を見つめてくる。質問攻めをされそうになったその時、開いたままの襖の向こうからズンと低い声が聞こえた。
「成実…。政宗様が呼んでいたと、そう言ってたよな。」
 そこには『不機嫌』と顔にありありと書いてある小十郎の姿があった。あぁ、そういえば確かシゲの名前は成実だ、思い出した。
 で、小十郎はその成実に呼び出されてた気がする。だというのにどうして政宗がここにいるんだ?
「えっと、それは、なんつーか…嘘?かな?えへっ!」
 小首を傾げて可愛い子ぶる成実の気持ち悪さに、俺と政宗はほぼ同時にぐぇ、と蛙が潰れた様な声を出した。しかし小十郎だけは違ってその言葉を最後まで一言一句逃さぬように真剣に聞くと部屋に入ってきて爽やかなような笑みを浮かべる。
「政宗様、失礼します。」
「Sure,好きにやっていいぞ。」
 一体何の話を?と思っていると、成実の顔が一気に強張った。
「俺を謀るとはいい度胸じゃねぇか…。さぁ来い。説教だ。」
 先程までのサディストっぷりは何処へ消えたのか、今はまるで叱られた犬みたいにしょんぼりとしている成実。しかし小十郎は容赦なくその腕を無理矢理掴んで引っ張っていく。それでもきちんと襖を閉めるところはやっぱり小十郎らしい。
 きっと成実は先程の俺と同じように説教地獄に遭うんだな。ざまみろサディスト!
 そう思いながら俺はもう一人のサディストの存在を思い出した。
「じゃ、続きと行くか。」
 そう言いながら再び俺の体つきを観察しようとする政宗に、俺は咄嗟に思い切り強いデコピンをかましていた。バチンという音が盛大に響き、俺の中指がジンジンと痛む。
 痛み分けか…と思って赤くなってしまった指先から政宗に視線をやると、政宗はまるでメッカの方向にお祈りを捧げている人のように畳に蹲っていた。
「何を拝んでんだ?もしかして俺?」
「何でてめぇを拝まなきゃいけねぇんだ!」
 勢い良く起き上がった顔、おでこの中心が赤く染まっている。間違いなくそれは俺のデコピンの跡だったが、どうやら政宗はその痛みで悶絶していたらしい。
 もしかしなくとも、俺のせい?
「Shit!突然攻撃してきやがって、どういうつもりだ?」
「どういうも何も、拒絶。人の事を骨だなんだ言うような輩に触られるほど俺は安くないから。」
 ツンとそっぽを向いてそう言えば政宗はあぁと何やら納得したように呟いてからしみじみと言葉を続けた。
「Oh,sorryあんだけ貧相な体じゃ、触られるのもcomplexか。」
 それが挑発だと気付いているものの、流石にカチンと来て俺は政宗の太腿の辺りをギュッと掴んだ。勿論手加減なんて存在しないので、痛みは中々にあるだろう。それでも声を押し殺したのは武士のプライドという物だろうか。
 そんな事を考えながら俺はギリギリと政宗の太腿を掴んだ。
「じゃあお前みたいなむっちりした太腿になれってのかこの野郎。お前だって腰が滅茶苦茶細いじゃねぇかよ。」
「それとこれとは別問題だ。というより痛いから放せ。Now。」
 そりゃそうだろう、戦国武将までは行かないものの人の命の取り合いに身をおいていた俺の握力は中々のものだ。痛くて当然。
「うるせぇな。俺は男としてのプライドが物凄ーく傷ついたんだ。その痛さに比べりゃなんて事ねぇよ、you see?」
 わざと政宗がいつも使っている言葉で返せば政宗はやれやれというように肩をすくめてからニィと口の端を吊り上げて笑う。いたずら小僧みたいなそんな笑みに俺は一瞬怯んだ。その隙を政宗が見逃すはずも無い。
 政宗は俺の首に手をかけると勢い良く押し倒した。しかも後頭部が一番最初に床と接触するという配慮も無く、思い切り。ガヅンという景気のいい音と共に目の前が一瞬スパークする。
 チカチカとする目の前に政宗の顔がアップで見え、その凶悪な面が悪戯心に蠢いているのがわかった。寝転がる俺の上に四這いになって動きを封じ込める政宗に、背筋がゾワっとする。
「おい、何考えて…」
 嫌な予感がする。そう思っていると政宗は首にかけていた手を放して俺のブレザーに手をかけた。
「脱げ。」
 その顔が余りにも真剣だったから、俺は目の前が再び真っ白に…なればいいなぁとつくづく思った。