「Unbelievable…」
 呟かれた言葉に怪訝な顔をするが、政宗は全く気付かない様子で俺の脇をぐいっと掴んだ。子供を抱き上げるように脇の下に手をやって抱え上げる。
「うぉあ!」
 ひっくり返った声を上げる俺をシゲが楽しそうに見ている。
「次は俺が抱っこしたいなぁ。」
「俺は愛玩動物じゃねぇ!」
 すかさず突っ込みを入れるが、一番突っ込みを入れるべきは俺を抱き上げているこの男だろう。何をしたいのかは全くわからないけど、何かにビックリしているのはよくわかった。
「…軽い…軽すぎる。」
 驚きに彩られた政宗の言葉。そして俺を床に下ろし…って、下ろすな!
「ぎゃ…っ」
 足の痺れは山場を向かえ、後は終焉を待つのみまでいったけれど、逆に言うならここが一番痛い時期だ。それをわかってやっているのかと思う程のタイミングの良さに俺は床に倒れ込みながら政宗を睨み付ける。
 しかしながらそれが通じる訳も無く、政宗は倒れ込んだ俺の腕に触れた。確かめるように数度ふにふにと腕を掴み、そして胸、腹、太腿へと手を滑らせていく。…これは、一種のセクハラに値するんじゃないだろうか。
「梵、何してんの?」
 そんな俺達を見ていたシゲが声をかけた。一番気になることを聞いてくれたシゲに感謝しつつ俺は政宗の手から逃れようと腕で這いずるが引き戻されてしまう。
「こいつ、筋肉がついてねぇ。slender通り越してboneだ、bone!」
 興奮して外来語が混ざっているせいか、シゲは首を傾げる。でも大体のニュアンスはわかったようで確かに細いよなぁ、と暢気に返答を返していた。
 ってか、誰が骨だ、誰が!!暗殺者として働いてた俺は一般人よりは筋肉だって付いてるし、力もあるってのに…。
「人の事骨呼ばわりするなっての!俺は細身なだけで、筋肉だって付いてるし!」
 政宗は俺の言葉にハン、と鼻で笑ってから俺の膝に触れた。痺れの取れた部位でホッと息をつくのもつかの間、政宗は俺のふくらはぎをグィっと、そりゃもう遠慮なくグィっと握ってきた。
「――っ!」
 涙目になりながらその痺れに耐え切れず畳をバンバンと叩くが政宗は俺の体を観察するのに熱中していて気付かない。そんな俺達のやり取りを笑いながら見ていたシゲがのっそりと近付いてきた。そして俺の頭の方に座ると顔を上から覗き込む。
 悪戯な笑い。こういう顔も政宗そっくりに歪み、そしてそのまま俺の両手を上から畳に縫いとめるように押さえつけた。一体何をしたいんだ、この従兄弟同士は。
「なんか楽しそうだから、参戦。」
 そう言われた途端に政宗の手が、丁度一番痺れているだろう土踏まずを掴んだ。
「あだだだだ!」
 最早何語かわからないなさけない悲鳴を上げ、できる事ならのた打ち回りたいが俺を押さえ込むシゲのせいで全く身動きが取れない。足をジタバタさせようとするが、残念な事にあの半端ない握力の政宗の手から逃げ出せるほど俺の力はなかった。
「あー楽しい。人間は動物とは違ってイジメ甲斐があるからいいよな。」
 軽い口調とは違ってどす黒い声でそう笑ったのはシゲの方だった。終始浮かべられていた薄い笑いは消されて、左側の口元だけが妙に吊り上がっている。
 あぁ、戦に出てる時の政宗と同じく物凄く楽しそうな状態になってる気がする。こいつ、サディスト?
「足も大して鍛えられてねぇな。」
 上とは違い、下は熱心に俺を観察中。全く別の事をしているにも拘らずどうして結果的に俺を押さえ込むような状況になっているんだ?これが無言で通じる、血縁関係の不思議って奴なのか?
 いや、今はそんな事どうでもいい。どうにかしてこの腐れ従兄弟共から逃げ出すかが問題だ。特に、上の方!シゲ!政宗はまだ純粋な探究心だけど、シゲの方は絶対的に何かが違う。このまま放っておいたら俺がどうなるかわかんない。
「誰でもいいから助けろー!」
 全身全霊の力を振り絞ってジタバタするが一向に効き目は無い。むしろ俺が抵抗したらシゲが滅茶苦茶嬉しそうにサディスティックな笑顔を浮かべたので、すぐに動きを止めた。
 この際多少の被害は見逃してもらうとして、特殊能力使うしか…。でも何使ったらいいんだ?炎出したら小十郎に又怒られるし、雷は政宗も同じだから大して効かないだろうし、かといって風も闇も大して打開策にならない。氷なんて出そうもんならこの状態で三人そろって氷付けだろう。
 上から押さえられてるから逃げようが無い。床に潜れりゃ逃げられるけど、そんなん物理的に不可能だし。
 そう思った時だった。体がずるっと床に沈んで、目の前が闇に染まる。そして二秒くらい闇の中を潜った後、俺は政宗達と少し離れた所に飛び出ていた。