3.
 目が覚めて早々俺は小十郎のお小言を聞く羽目になっていた。理由は、窓の枠を焦がした事。ナルシストよろしく自分の特殊能力に浸っていた俺は暫く拳の炎を消さないままにぼーっとしていたもんだから、見事その近くにあった窓枠がこんがりと熱で焦がされてしまったのだ。
 般若も裸足で逃げ出すような怖い顔…いやそれは元からか…をされながら、俺はこってりと絞られていた。こんなに長い説教をされたのは生まれて初めてだけど、できる事なら最初で最後であって欲しい。
 長い長いお説教に、正座という文化がかけ離れつつあった時代の俺の脚は限界を訴えていた。
「小十郎、あの…」
「話しはまだ終わっちゃいねぇ。」
 小さく手をあげて恐る恐る声を出すが、提案をする前に却下されてしまった。足の感覚は随分前くらいから痺れを通り越して痛みへと変化しており、正直もうどうしようもないところまで来ているんだけど、小十郎は全く気付かない様子で小言を紡ぐ。
 ってか、小十郎もお説教の間はずっと正座してるんだよな。どうして痺れないんだ?これが忍耐力って奴なのか?
 無限にも続くんじゃないかと思われた説教地獄は、思わぬ来客により中断された。
「小十郎、梵が呼んでるぜ。」
 襖越しに聞こえてきた声。聞き覚えの在るその声と、梵っていう呼び名でその人が昨日の政宗の従兄弟だってのを思い出す。名前は確か、確か、シゲ…?  まぁいいか。シゲだ、シゲ。
「わかりました、只今参ります。」
 ふぅ、と溜息を一つついてから小十郎が立ち上がる。痺れとかそんなもんが存在しないように綺麗な身のこなしで去っていくその姿は賞賛に値した。世界正座選手権とかあったら、きっとグランプリ獲得できるって。絶対。
 俺はさっそく脚を崩した。途端に一気に血が足の中を駆け巡ってその痛みに眉根を寄せる。くすぐったいような痛みがじわじわと俺の脚の先を中心に膝辺りまで来ていた。
「痛ってーぇ、マジ痛ぇ。」
 ジンジンしている足の感覚を紛らわすようにゴロゴロとのた打ち回っていると、目の前に足があった。それを上へと辿ってみていくと、そこには赤毛のお兄さん、シゲの姿があった。政宗とそっくりな顔をしているせいか、その視線がとてもcool…っていうか痛い。のた打ち回っている俺をじっと見つめているその姿に俺は正直戸惑って乾いた笑いを口にする。
「あ、あはは。」
 シゲは一気にかがみ込んでのた打ち回る俺の顔をじっと見つめてくる。そして確かめるように何度か頬をプニプニと人差し指で押し、そのまま頭へと手を伸ばして髪を撫でる。
 一体俺は何をされてるんでしょうかね。
「…合格。」
「へ?」
 突然に言われた言葉に唖然としていると、シゲは満面の笑みを浮かべて未だ痺れの取れていない俺を担ぎ上げ、ぬいぐるみよろしくギューッと抱きしめてきた。
 政宗よりでかいその長身に抱きかかえられる状態で、俺は地面から離される。その分痺れが無くなっていいんだけど…。
「苦しい、苦しい!!」
 大の男に羽交い絞めにされているお陰で肺の中の空気が全部圧迫されて抜けていってしまい、空気が入ってこない。しかも足が痺れて動けない。これはなんだ、新手の嫌がらせか?
 睨み付けてやれば、シゲは俺の頭をグリグリと力強く撫で回す。男前が笑顔になるとそれだけで別の破壊力があるらしく、俺の動きは一時的に停止した。
「可愛いなー、よしよし。」
 抱きしめる力が緩まって漸く酸素を胸いっぱいに取り入れていると、まるで犬を愛でるように撫でられる。昨日の発言からして、こいつ…
「俺の事、動物扱いしてない?」
 問いかければシゲは悪びれた様子も無くニヘラとした笑いを浮かべて大きく首を縦に振った。
「ほら、人間なんてって思ったけどさ、改めて見れば可愛い方じゃん?十分愛玩に値すると思って。」
 何がほら、だ!俺は犬か何かか!?咄嗟にそう叫んで突っ込みを入れようとした時、スパーンと勢い良く襖が開いて不機嫌そうな筆頭が現れた。
「Hey,成実!てめぇ、人のモンに手ぇ出すんじゃねぇよ!」
「いいじゃんケチぃ。減るもんじゃないんだからさー。」
 ブーイングをしながら俺の頭を撫で繰り回すシゲ。まるで本当に犬になったみたいに好きにされている俺は最早抵抗する気力もなくなっていた。こういう奴は、好きにさせてさっさと離れるのを待つしかない。
 しかし政宗はわかっていないらしくシゲから俺を無理矢理引き剥がした。途端俺の脚に痺れが走る。
「うぉ!」
 シゲに抱きかかえられる事でまだそこまで感じなかった痺れが一気に来た。それから逃げるように咄嗟に近くの政宗に抱きつく。
「痛ってー!突然放すんじゃねぇよ!」
 怒鳴るもシゲは全然反省していない様子で不可抗力だって。とか言ってくる。確かに俺を地面に降ろしたのは政宗の仕業だ。その顔を睨みつけてやろうと思って見ると、政宗は硬直していた。そして、信じられないというように恐る恐る俺の背に腕を回し、何かを確かめるように俺の背、首、腰の辺りを撫でていく。