「いい目じゃねぇか。…、お前を拾って正解だったぜ。」
天下の政宗に褒められた!何、俺ってば気に入られてる?やっぱり俺の人のよさが滲み出てるんだろうなぁ…。これからは必ず長所は人とすぐに仲良くなれる事だと大きく書いてやろう。履歴書とか、あれば、だけど。
「じゃあな、Goodnight.」
去っていく政宗の姿。それを見送ってから小十郎が俺に目をやる。
「…ま、説明した通り俺は隣の部屋にいる。何かあったら俺に言え。」
「え、あ、あぁ。」
薄ら返事を返す俺に小十郎は少し驚いたようだったがすぐに仏頂面に戻って部屋を出て行った。音も無く閉められた襖、ただ一人、部屋に取り残された俺。考えなくてよかった事が、一気に怒涛のように俺の頭を支配する。
改めて室内を見渡せば、低い机…文机っていうのか?あと寝具とか一式に、小さな箪笥、行灯っぽいの、障子、月明かり。
本当に、本当に、現実なのか?
「本当、なのか…?」
考えれば考えるだけ、まるで迷路みたいにグルグルと思考が彷徨い始める。俺は、高校を卒業して、それで、同業者に追われて、屋上から落ちて。それだけだったはずなのに。
夢みたいだ。いや、いっそ夢なんじゃ無いだろうか。目が覚めたら病院で、白い天井と白いシーツと白いベッドに囲まれて、医者の人にどうして屋上から飛び降りたんですか?って困った顔で問いかけられるんだ、きっと。そうじゃなかったらオカシイ。
ゲームの中の世界に入っちゃいました、なんて、信じられるはずが無い。オカシイんだ。
「わっかんねぇ…」
じゃあ俺が今感じているのは何だ?どうして目を何度閉じたり開いたりを繰り返しても同じ景色なんだ?どうしてだよ。
「わかんねぇよ。」
青い月明かりは痛いくらい目に付き刺さる。障子越しだってのに、ちゃんと現実を受け入れろって言うみたいに部屋の中を照らしてる。わかんないって言うのは、わかりたくないからだ。わかったらきっと、俺は…。
帰れないって、理解しちまう。
「っ!」
突然に恐怖に駆られて障子を開け放つ。ビルの明かり、飛行機のライト、外灯、人ん家の明かり、なんでもいい。それらが見たかったってのに、障子の向こうにあったのは城を守る為の兵士が使っている火のみ。しんとした空気。車の音も電車の音も、何一つ聞こえやしない。
夢だと思ってたし、すぐに消えると思ってた。意識があるんだから、こうやって考えられるんだから、きっと目が覚めたらいつも通りの生活になると無意識のうちに思っていた。
それが、違うと。
これが現実で、俺は訳わかんないうちにゲームとそっくりな世界に迷い込んでしまったんだと、そう理解してしまった。
「これが、現実…?」
自分の信じていた常識が一気にかき消された恐怖。足元からゆっくりと俺の中へと浸透していくそれに、俺は口元を歪ませた。
「…上等ぉ…。」
恐怖が理性を上回り、俺の理性とかそんなものが一気に頭からかけ離れていく。それは一種、仕事をしている時の高揚感にも似ていた。目の前に恐怖を叩きつけられた時、人間の本性が曝け出される。逃げ惑って、錯乱して、形振り構わず当り散らす。それが本当の自分だ。
じゃあ、今こうやって笑っているのが本当の俺なのか。
冷静に分析している俺は、笑顔を浮かべる口の端を確かめるように親指の腹でそれをなぞる。常識が覆されて、訳のわからない状況に、愕然とする俺の中、そいつは楽しそうに口元に笑みを浮かべる。
「楽しいじゃん。」
夜風が俺の横を通り過ぎる。足元からの崩壊の感覚は最早感じられず、逆にこの状況を楽しんでいる俺がいた。常識を覆されたのはこれで二度目だ。裏切られるのも、常識っていう日常が消えていくのも、もう慣れてしまった。だから怖いものなんて何もありはしない。
右手を夜空に翳してイメージをする。考えるのは真田幸村の技で、拳に炎の宿るアレだ。
「凄ぇ…。」
想像し始めると、蜃気楼みたいに拳の周りの風景が歪み、それと同時に炎が俺の拳を包みこむ。しかも面白い事にその炎は俺にとっては熱くもなんともないって言うのに、近くにある窓の枠をジリジリと熱で間接的に焼いていた。
イメージ通りに付与される特殊能力的なものは、どうやら俺の想像力に左右されるらしい。一人一種類で付与されるはずのそれは俺にとって関係ないらしく、政宗と戦った時の雷と今作り出している炎…両方が使える。この調子だと他の氷や闇、風といった特殊能力も使えそうだ。
オールマイティに使いこなせる俺って、結構凄いんじゃね?そんな事を考えながら、興奮冷めやらぬ俺は暫くその炎を見つめていた。
次の日、窓の枠を焦がした事を小十郎に散々とっちめられる事を、その時の俺は理解しないままに。

