俺の実力っていうか、力の強さを理解しているからこそ政宗は俺みたいな不審者をわざわざ城まで連れてきたんだろう。直属っていうのは聞こえはいいが、早い話が目を離したら何をするかわからないから監視という意味合いも含まれているに違いない。
まぁ、捕虜とか敵とか、とりあえずそういう扱いだったらこれとは比べ物にならない酷い仕打ちって奴を受ける羽目になっていたかもしれないと思うと、それでも十分に俺は満足していた。
小十郎はやっぱりなという表情の中に僅かな諦めの色を浮かべていた。どうやら政宗の鶴の一声に逆らえる者は存在しないらしい。
「どうだ?…この話、悪くないだろ?」
この世界のルールとか基本的にわからないけれど、それが凄い事だと言うのは何となくわかってはいる。何てったって、どこの誰とも知らない奴を突然一番偉い人の部下にするなんて、普通ならないだろう。
それに何より、今の俺には住む場所がない。何もわからないこの世界で居場所がないよりは、今この条件を飲んだ方が俺としても好都合だ。
と言う訳で。
行く当てもない俺は渡りに船とばかりにその勧誘にのったのだった。
それにしても。
「こっちの流儀ってよくわかんないけど…自軍に勧誘する時に組み敷くのが礼儀?」
正直この体勢は辛いもんがあるんだけど。
僅か皮肉を添えれば政宗はようやく俺を放してくれた。妙な方向に引っ張られていた首が痛いのでごきごきと左右にひねった。
「お前の生まれの方じゃ、人に仕える時はどうしてるんだ?」
俺を組み敷いた時に僅か乱れた着流しを、立った状態で整えながら政宗が問いかける。俺は仕事に入る時に誓わされたアレをやってやろうと思った。
まるで映画の一部分を気取っているような、あの誓いを。
「俺の方では、こうやってる。」
俺はちょうど立っていた政宗の足元に跪いて恭しく頭を下げた。
「俺の仕事の名、菫をあんたに渡す。武器として、防具として、俺の名を呼んで命じられる権利を持つのはあんただけだ。」
これが仕事について一番最初に誓わされた言葉だ。元々はもっと恭しい敬語とかたくさん使われていたんだけど、結局覚え切れなくてニュアンスだけで喋った結果がこれだ。
「菫?」
政宗が俺の名前を口にした。怪訝そうな表情をされるが、大体何が言いたいのかがわかる。菫、なんて花の名前を名乗った事に驚いているんだろう。
それが偽名だという事は仕事の名と言った時点で理解しているだろうから、どうして菫なのか、といった所か。
「俺いっつも笑ってるから、Smileって呼ばれてたんだ。読み方変えたら菫になるだろ?」
誓いの言葉を終えていつも通りの言葉遣いに戻して説明すれば、なるほどと言った様子で納得する政宗と、スペルのわからない小十郎の首をひねる仕草。
「で、菫。お前の本当のnameは何て言うんだ?」
「。…
だ。」
政宗は数度口の中で俺の名前を反芻すると頷いた。
「OK今日からお前は伊達軍の一員だ。おい小十郎、皆に明日集会があると伝えろ。New faceの紹介だ。」
「はい。」
新入り紹介か。何だか政宗が言うと暴走族っぽく聞こえるんだよなぁ。なんてったって伊達軍のモブって大体リーゼントだったりカラスマスクだったり、ムービーだって無印の時なんか完璧な暴走族だったし。
「Hey,。」
「へぁ?」
考えている時に突然声をかけられたもんだから返事が間の抜けた変な声になる。
「今日はゆっくり休め。何かあったら隣の部屋に居る小十郎に声をかけろ。」
それはつまり、不審な動きが無いように小十郎が見張ってるという遠巻きな脅しだろう。
さっき俺が刃向かってからというもの、政宗の態度がゲームとはまったく違って見える。ゲーム時の子供らしい好戦的な視線はなりを潜め、冷静で淡々とした光を持つ。
これが、『国を支える者』としての政宗の姿なのかもしれない。
「なぁ政宗ー。」
呼び捨てれば小十郎の眉がぴくりと動いた。目の端でもわかるその動きに俺は小さく笑いを浮かべながら政宗を見やる。
「俺は政宗に仕えるのを誓ったんだから、もう見定めようとするのは終わりじゃないのか?」
国を支える者として、自分の命令を聞かないと思い切り宣言した奴を自軍に取り入れるメリットとデメリットを考えるその姿が、俺の目には冷静でプライドの高い竜に見えたのかもしれないと思った。
勿論あてずっぽうだけど、俺としてはあたらずとも遠からずって感じなんじゃないかと思ってる。だって現に、俺がそう言った途端に政宗の表情が変わったから。
「あんたにゃすべてお見通し、か。」
そう呟いて、政宗がニヤと笑いを浮かべる。自信に満ちた笑みは、子供っぽいあどけなさを僅かに含んでいる。

