「いただきます。」
視線なんてどうでもいい。今は胃袋を満たすのが先決だ。
スープに箸という何だか変な感じのする組み合わせだったが、そんなの気にならないほど旨い。野菜がたくさん煮込んであって、鶏肉ベースのあっさりした味加減。
「旨い!何これ、滅茶苦茶旨いよ!」
スープを口にして第一声がそれだった。それには敵意を向けていた小十郎もあっけに取られてしまっている。政宗はというと、そんな俺のリアクションに楽しそうに笑っていた。
「ところで政宗様。先程成実が政宗様を探しておりましたが…」
「Really?何かあったのか?」
「そこまでは聞いておりませんでしたが…」
主従二人の会話をBGMに俺はスープを口に運ぶ。人参を口に含むと政宗がこっちを向いた。
「Sorry,すまねえがちょっと出る。何かあったら小十郎に言ってくれ。」
言うや否や足早に部屋を出て行く政宗。成実って確か伊達軍に居たモブだったよな。すぐに行くって事は結構重要な人なのか。
閉められた戸を見やりながら人参を咀嚼していると、小十郎が俺の目の前に座った。そしてじっと俺の顔を見つめてくる。
あぁ、俺の事を見定めようとしてるんだなぁ、って思った。こんな目はよく見た事があるからだ。
仕事の依頼主が、果たして本当に俺が仕事を成し遂げられる奴かどうかを判断する時の目に良く似てる。
「わからねぇな…」
小十郎はふぅと小さくため息をついた。その言葉が敬語じゃなかった事に俺は内心ホッとしていた。やっぱり小十郎はこっちの言葉使いの方が似合ってる気がする。
「俺はお目がねに適んない?」
問いかければ小十郎はムッとした表情のまま淡々と言葉を口にした。
「いえ、判断するには材料が足りません。今の段階ではまだ信用しかねるのが私の考えです。」
「そんな奴を自分の主の傍に置いてて不安じゃねぇの?もし万が一の事があったら?」
敬語の小十郎にからかうような言葉を言ってみれば、さらにムッとした顔になりながらも、その言葉を鼻で笑い飛ばした。
「その前に俺がお前を切る。」
ズンっと腹に来るような威圧感に俺は笑みを浮かべ、スープを飲み干した。
「やっぱ格好いいなー。ね、ね、何で敬語だったの?」
敬語を崩した小十郎に問いかければ、何を当たり前なことを、って感じの顔をされてしまった。
「自分の仕える主の客人に、敬語を使わぬ従者はおりません。」
そんな事も知らないのか、馬鹿が。って感じで、敬語ながらも中々冷たいニュアンスが含まれている。どうやらさっきの俺のからかい言葉で、完全に俺を敵視しているのだろう。
あれ冗談なんだけどなぁ。政宗は結構好きなキャラだから、殺したくなんてないし。それに依頼されてないのに人を殺すなんて俺の中のルールが許さない。
「どうせここに政宗はいないんだから、敬語なんか使わなきゃいいじゃん。それに、そんな信用できない奴に敬語なんて使いたくないっしょ?」
俺の言葉に小十郎は暫し唸って考え込んでいたが、すぐにニヤとした笑いを浮かべて頷いた。
「確かに、こういうことは要領よくやらねぇとな。」
あくどい笑みを浮かべる小十郎に俺もつられるようにして笑う。やっぱり、小十郎はこういう時の方が好きだなぁ、なんて思いながら。
「いいね。俺、そういう所好きだよ。」
思わず口に出せば小十郎は目を丸くして俺をまじまじと見つめた。
「敬語が嫌いでこんな口調が好きたぁ、変な野郎だ。」
怪訝そうな表情を見せながらも、俺に対する警戒心は若干薄れている。俺の滲み出る人のよさっていうのがわかったんだな。うんうん。
何だか和みムードに入ったその時だった。外がわいわいと騒がしい。一体何がと思っていると、聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「No!お前は駄目だ!」
怒涛のようにわめき散らす政宗の声と、知らない声がもうひとつ。それを聞いた小十郎が小さくため息をついた。
「俺と梵の仲だろ?いいじゃねぇか別に。」
ボン?ボンって何だ?
「で、今回は何を拾って来たんだ?犬か?」
スパーン!と豪快な音と共に戸が勢い良く開かれる。そこには満面の笑みを浮かべた政宗が…って、あれ?政宗って赤毛だったっけ?首をひねるとその後ろからもう一人政宗が現れた。こっちの方が茶髪だから、こっちが本当の政宗なのか?よくよく見ると赤毛の政宗の方が政宗より五センチくらい大きかった。
って事はこっちの赤毛のお兄さんは一体…?
疑問を浮かべる俺を見て赤毛の政宗そっくりなお兄さんの動きが止まる。そして何故だか急に後ろを振り返ると政宗の肩をガシっと掴んで前後に揺さぶり出した。

