2.
最後の記憶が、最後に見た幻覚が、ゲームだったなんて…。俺らしいっていうかなんていうか。しかもそれが妙にリアルなんだから笑っちまうけど、いいや。面白かったし。
それにしても、死んでも腹って減るんだな。さっきから胃がグゥグゥ煩いんだけど、これってどうなんだろう。死んだら食べ物なんて食べなくていいのに、どうして腹が減るんだ?
「随分と大きな腹の音で。」
溜息混じりな低音ボイスが聞こえてくる。
「元気な証拠って奴だろ。おい小十郎、Soupか何かこいつに用意してやってくれ。」
「わかりました。」
あぁ、最後の最後まで脳内麻薬が俺に音声だけでもゲームの世界を提供してくれている。ありがとう、俺。
スーッっていう障子とか引き戸系の扉の開閉音と、遠ざかる足音。そして徐々にはっきりしていく意識。そう、意識が次第にはっきりしてきて…!?って、ちょっと待て。どうして意識がハッキリしてくるんだ?普通だったらもうそろそろ死んでもおかしくないだろ?というかもうそろそろ死なないとおかしいだろ!?
内心の突っ込みと共に俺は目を開く。茶色い天井と、そして視界の端に映る着流しを着た政宗の姿。
「起きたか?」
「…いや、まだ寝てるみたいだ。」
こんな事ある訳ない。あっちゃいけない。つーかむしろありえない。そう思い込もうとしてるのに、政宗はそれを許してくれなかった。
「しっかり返事してるくせに何が寝てる、だ。起きてるだろうが。Ah?」
無理矢理目を閉じて布団にもぐる俺から布団を引き剥がそうとする政宗。そしてそれを阻止する俺。
おかしいだろ?だって、幻覚にしちゃ長すぎる。かといって夢を見ているにしてはリアルすぎる。だとしたら、考えられるのは非現実的な答えだけ。
考えれば考えるほど、現実的な見解から遠のいていく事実。これってアレだよな、よく小説とかで見かけるトリップって奴じゃん?
そっか、俺ってば時空跳躍しちゃったのか。時空跳躍して運命を変えていくんだな!
「ってそんな訳あるかーー!!」
自分の考えを吹っ切るように叫んで飛び上がれば、すぐそばで俺の様子を見ていた政宗とバッチリ目が合う。怪訝そうな顔で見られれば、その視線に耐え切れずに俺は目をそらした。
「Good Morning.いい加減目は覚めたよな?」
叫びながら飛び起きるという何とも不審な動きをした俺に、政宗は平静を装いながら声をかけてきた。さすがは奥州筆頭、あれくらいじゃビビらないらしい。
「あー…うん。えっと、ここ、どこ?」
周囲を見回せば、ちょっと広い風格のある和室だった。勿論、部屋の良し悪しなんてまったくわかんないから勘だけど。
「ここは俺の城だ。で、ここは俺の部屋。Understand?」
「ぃ、いえす…」
どうしてこんな事になっちゃったんだろう。学校の屋上から落ちて、真っ暗な暗闇から光が見えて、それを手にした途端に気がつけば突然こんな場所にいて。
マジで、訳、わかんねぇ。
「お前、Englishわかるのか!」
嬉々として俺の肩をガシッと掴む政宗。考え事していた俺は何が何だかわからなくて目を白黒させていた。
「Hey, Can you speak English?」
問われて、考えて、ようやくどうしてこうなったのか思い当たる。
さっき、政宗の英語に片言とはいえ英語で返しちゃったのがいけなかったんだな。でも今更しゃべれないなんて返答しても政宗の機嫌を損ねるだけだろう。という訳で俺は仕方なく答えてやることにした。
「A little...」
「会話もできるんだな。」
興味津々と、顔にありありと書きながら政宗が問いかけてくる。好きにしてくれと半ばやけになりながら俺は頷いた。
「政宗様、失礼致します。」
戸の向こうから聞こえてきたのは小十郎の声だった。さっきの会話を聞くに、きっと俺への飯を持ってきてくれたんだろう。
「OK,入っていいぜ。」
スッと音もなく開けられた戸の向こうにはお盆を隣に置いて扉を開ける小十郎の姿があった。厳つい顔に似合ない、洗練された動作に思わず目を奪われる。
「お目覚めになられましたか。」
…どうして俺に敬語使ってるんだろ。政宗相手しか敬語使ってなかったような気がするんだけどなぁ。疑問に思いながらも、小十郎が俺の前にそれを置いてくれる。ほかほかとでてくる湯気まで美味しそうだ。
「小十郎特製soupだ、食え。」
まるで自分が作ったみたいに自慢げに胸を張る政宗。小十郎はそんな政宗を困ったような笑みを浮かべながら見つめ、そして俺へと視線を向けた。
「…。」
その視線の恐ろしいのなんのって。本人は意図して威嚇している訳じゃないんだろうけど、不審者である俺を警戒しているのかその視線が痛い。チクチクどころじゃなくて気を抜いたら切られちまいそうな、そんな勢いだ。
だがしかし、昼飯も何も食べてない俺の胃袋は美味しそうなスープを前に、我慢ができなかった。

