「申し遅れた、某は真田源二郎幸村と申す。」
「はいはーい、俺様は猿飛佐助ね?」
「あ、どうも…」
 つられて頭を下げるのは日本人独特の条件反射という物だろう。ただ、方向的にお辞儀もしていない佐助に頭を下げてしまう事になってむかつくけど。
「して、貴殿の名は?」
「あ、俺の名前は、」
  と言おうとした時、俺の体は後ろから何者かに抱きすくめられていた。しかもご丁寧に何も言えない様に口まで塞がれている。
「Sorry?こいつは俺のもんだ。名乗りを上げるか否かは俺が判断するぜ?」
 …はい?
 その場にいる全員が、一瞬呆然とした。
「政宗様?」
 恐る恐るという表現がピッタリ来る様な感じで小十郎が政宗を呼ぶ。言外には、何のつもりですかと言ったニュアンスが含まれていた。
 小十郎の胃がキリキリしてそうでなんだか可哀想になってくる。
「でもさっきは無所属だって言ってたよね?」
 そうなんだよ、っていうか現在進行形で無所属だし、俺がいつ政宗の元に下ったんだ?
 ジタバタ暴れてその腕から逃げようと試みるが、日本刀を片手で三本持つだけあって握力及び腕力が半端無い。無理をすれば逃げられるだろうけど、多分その前に顎の骨が砕けるだろう。
「それはあんた達の情報を得る為のFaceだ。」
 そんな間にも政宗は嘘八百を並べ立てる。しかもそれが堂々としているもんだから、嘘だとわかっている俺までもしかしたらそうなんじゃないかと思ってしまうほどだ。
 とはいえ政宗のその言葉に幸村が眉根を寄せていたし、佐助なんかは政宗の言葉に怪訝そうな顔をしている。さすがに単純な幸村もそんな佐助と助けを求める俺の姿を見れば政宗が嘘ついてるってわかるだろう。
 長い長い沈黙の後、幸村が口を開いた。
「……そうでござったか。」
 信じちゃうのかよ!!…いや、政宗の言い方は滅茶苦茶説得力あるけどさぁ、でも幸村って本当に人を疑わない奴なんだな。ここまでくると尊敬するよ。その純粋さとか爽やかさとか、政宗にあげてくれないかな?
「政宗様。」
 窘める声から、僅か苛立ちを表す小十郎の声。あんな強面のお兄さんに睨まれても政宗には全く効果はなかった。むしろその腕の中にいる俺の方がびびってしまう。
 だがしかし本当の恐怖はその後に用意されていた。
「Ah?どうかしたか?」
 いつものようにからかいすら含んでいるように感じる政宗のセリフ。だが俺を抱きしめる腕には力が籠もり、言葉の外、雰囲気は一気に威圧へと変更されていた。
 流石は奥州筆頭。オーラだけで小十郎を黙らせてるよ。
「いえ、なんでもありません。」
 とうとう小十郎が折れた。小さな溜息と眉間の皺が小十郎の心労の深さを示している。きっと神経性胃炎になるのも時間の問題だろう。
 完全に話しの外に出てしまった武田軍二人組みの片割れが諦めたように口を開いた。
「旦那ぁ、大将待たせていいの?」
「っ、しまった!!…それではこれにて。」
 言うや否やぅおやかたさばぁぁぁー!!と叫びながら幸村が走り出した。そのスピードは政宗の元へ来た時と同じ位の速さで、普通の人間だったら出ないだろう猛スピードだった。
 砂煙をたてながら走り去る幸村を見ていた佐助がチラとこちらを見やる。
「当人の意見も聞かずに勝手に引き入れるなんて、最低だね。…いつでも甲斐に来なよ。俺様、大歓迎だからさ。」
 勿論最初の言葉は政宗に。最後の言葉は俺に。無言で政宗と佐助が睨み合い、そして俺の目の前に立っていたはずの佐助の姿がフッと掻き消えた。
 あとに残ったのは一陣の風と、そして何枚かのカラスの羽。
「さて…。」
 佐助と幸村の気配が完全に消えてから政宗がそう言うと俺を拘束していた腕を放す。俺はすぐさま政宗の近くから離れると、とりあえず一番の常識人っぽい小十郎の後ろに隠れた。
「俺さぁ、伊達軍に下った覚えないんだけど…」
 小十郎を盾にしながら文句を言う俺に政宗はムッとした顔をする。怒られた気分になるが、俺は別に間違ってない。むしろ間違ってるのは政宗の方だろう?
「一体どのような経緯でこんなひ弱な者をうちの軍に入れる事にしたのか、理由をお聞かせ願いたい。」
 ひ弱って表現はちょっと、いや結構腹立たしいがそれは今は置いておこう。俺もどうしてこんな事になってしまったのか理由が聞きたい。
 内心、大体の予想はついているけど。