「物騒なお詫びもあるんだな。」
嫌味に言ってその手を注意してやれば佐助はヘラヘラとした笑いを止めて真顔になった。忍びらしい顔つきって、無表情なんだなって思っていると佐助の手裏剣が俺の首筋に当てられていた。
忍びの技って早いのか、やっぱり。
「あんた一体何者?何処の軍?何しにここへ?」
矢継ぎ早に問われて俺は首を傾げた。佐助ってこんなふうに切羽詰ったような話し方だったっけ?
違和感を感じてじっと佐助を見れば、表情は押し殺しているけど目だけはやっぱり偽れないみたいで、その中には戸惑いが浮かんでいた。まぁブレザーの制服着てりゃぁこの世界では嫌でも浮くよな。
「とりあえず、何処の軍でもないよ。無所属。」
何者と言われても普通の人間だし、何しにって言われても意図してここにきた訳じゃ無いし、唯一答えられる事を話す。
「無所属?それなのに竜の旦那とやりあってたの?」
てっきり織田か明智の軍の者かと思ったと言われ、俺は正直傷ついた。織田はともかく、何で明智なんだ?あんな変態キャラの部下かと思われてたってだけでも精神的に大ダメージだ。
物凄く嫌そうな顔をしていると佐助がごめんごめんと軽く誤ってきた。
「まぁ竜の旦那は好戦的だからね。どうせ向こうからしかけてきたんでしょー?」
「そうなんだよ、勝手にやる気出すから参っちまう。」
即答すると、佐助はブッと吹き出して楽しそうに笑う。
「やっぱり!だと思った。」
その様子を想像して散々面白そうに笑ってから手裏剣を元の位置に戻す佐助に俺は笑い返す。やっぱりキャラ設定通り、佐助ってば優しいんだな。俺と同じ暗殺者の匂いがするのに、仕草も表情も人間に近いや。
少しだけそんな佐助を妬ましく思いながら俺は再び蒼と紅の戦いへと目をやった。
一進一退、互いに引けを取らない技の対決。ゲームと違って、その場に適した技や動きが入っていていい勉強になると思って暫く二人をじっと見ていたのだが、それもすぐに終わりを迎えた。
二人の戦っている向こうから、馬が駆けてくる。見事な手綱さばきでこちらへ向かっているのは、竜の右目こと片倉小十郎だった。その姿を見ると佐助がつまらなそうに唇を尖らせる。
「あー…分身がやられちゃったのか。しょうがない。」
渋々と立ちあがる佐助。どうやら武田と伊達は主従それぞれがペアになって戦うのが通例らしい。主は主同士、従は従同士という組み合わせなんだろう。
俺は又一人ポツンと取り残されてしまい、ぼんやりしてようかと思ったのとほぼ同時くらいに遠くからほら貝の音がした。
それを聞いて佐助と幸村がピタリと止まる。それに釣られるようにして小十郎と政宗も動きを止め、互いに敵に向き合ったまま少しずつ後ろへと下がっていく。互いの間合いから出ると武器をしまった。
「今日はここまでか。Ha,楽しみは一度で済ますにゃ勿体ねぇ…次を楽しみにしてるぜ。」
「某、次回の政宗殿との戦いの為に、日々精進してまいりまする!」
素晴らしきスポーツマン精神というべきか、まぁとにかく二人は爽やかな雰囲気に包まれて握手を交わしている。主に爽やか要素は幸村のみで、政宗のあの凶悪な面は何一つ変わっちゃいないがまぁいいだろう。
問題はこっちだ。爽やかな雰囲気とは違い、どす黒いオーラのようなものが放たれている。
「分身を使うたぁ…随分と舐めた真似をしてくれるじゃねぇか。」
低音でドスの聞いた声で凄んでいる小十郎に佐助はニヤニヤと人を食ったような笑いを浮かべる。
「でも、その分身相手に結構手間取ってたじゃん?今更来るなんてさ。」
佐助の言葉に苛立ちを隠せない小十郎。しかしながらそれが挑発だと気付いてすぐに仏頂面に戻った。佐助はこれ以上何をやっても無駄だと気付いたのか茶々を入れるのをやめる。
手馴れている一連のやり取りに、これがこの人たちの日常なのかと思っていると小十郎が訝しげに俺を見た。
「お前…武田の者か?」
じっと顔を見てから聞いてきたあたり、小十郎は自分の軍全員の顔を覚えているんだろう。だから見た事のない俺を武田軍だと思ったのか。
でも違うんだよな。その辺説明しないと、と思ったが俺の言葉は政宗の言葉に妨げられた。
「いや、こいつは武田のもんじゃねぇ…な、そうだろ?」
言っている事はあっているから頷くが、今の言葉、何かしらの含みを持っているような気がする。それになにより、俺を見る政宗の目が新しい玩具を見つけた子供のようにキラキラと輝いている。
嫌な予感がしたので俺は立ち上がると少しだけ後ろへと後ずさった。
「そちらの方は一体いつからいたのでござるか?」
「今更気付いたのかよ!?」
俺の問い掛けというか、半ば突っ込みと化していたそれにキョトンとした表情のまま幸村が素直に頷く。ここまで来ると天然なんて言葉じゃフォローしきれないものがあるな。
「旦那の来る前からいたってば。覚えてないの?」
「何、それは真か!?」
いやいや、そんな嘘ついてどうするんだよ。
佐助は慣れた様子でそうなんですよーとか適当な事を言って流していたが、幸村は慌てて俺の前に立つとペコリと頭を下げた。

