1.
激しい光の洪水をさえぎるようにきつく目を閉じると、遠くから人のざわめきが聞こえた。しかもそれは徐々に俺の方へと迫ってくる。
声が大きくなるのと反比例するように閃光が徐々に力を無くし、最終的には光が消えた。
一体何が起こったのだろうと目を開けると、そこには…
「…え?」
そこには、合戦が繰り広げられていました。
…あぁ、何かの映画の撮影?なんて現実逃避は許されないくらい、緊迫した雰囲気と血の独特な匂い。だからといってこれが現実だとは到底思えない俺は、あまり良くない頭をフル回転させて納得のいく説明を見出した。
きっとこれ、脳内麻薬の作った幻覚だ。そう結論付けてしまえば後はもう疑問なんて浮かばない。
「夢みたいな、もんだろ。」
言い聞かすように口の中で小さく呟くと俺は近くで事切れている奴の日本刀を奪い取って立ち上がった。
俺のいる所はさっきまで戦いの中心地だったのだろうか?沢山の人達が地面に伏してまるで絨毯さながらだ。赤と青、二色の兵士達が地に伏しているので、きっと二つの勢力が戦った結果なのだろう。
そう思いながら周りを見回していると、ふと、その兵士達の姿が記憶の中の何かに引っかかる。
どこかで見た事があるその甲冑をじっと見ていると、背後から人の気配がした。
否、これは気配なんて生易しいものじゃない。殺意だ。
「Hey,What are you doing?」
声と共に自分の顔の横すれすれに何か長いものが後ろから突き出されてとまる。目の端に捕らえたそれは日本刀で、血をふるい落としてはあるものの、未だベッタリとこびりつく赤は酸化して黒くなってきていた。
少しでも動いたら、俺の後ろに立っている奴はためらい無くその切っ先を振るうのだろう。
「もう一度聞くぜ。…こんなところで何してる。」
多分その問いかけに三度目は無い。言葉と言葉の間に存在した僅かな間に、そんな雰囲気がうかがえた。
「俺は…」
声が震える。膝がガクガクと、まるで自分の物じゃないみたいに勝手に動く。緊張は心の底かららわきあがる興奮へと形を変えていく。
そんな俺の反応を相手は恐怖故と思ったらしく、俺の頬付近でとまっていた刀を退く。
パチン、と刀を鞘へとしまった音が聞こえる。それを合図に俺は飛びのく様にして相手との間合いを取ると同時に、この気配を…殺気を出している奴の顔を見るために振り返き、そして。
「……」
言葉を、失った。
青い陣羽織に、左右に付けられた六本の日本刀、蛇のような金色の瞳孔がこちらを見据えていた。
「Ah...?」
口を開けて呆けている俺に相手が怪訝な表情浮かべるが、知った事ではない。今の俺はそれどころじゃないんだから。構える事すら忘れてしまう程の驚きにフリーズしていた脳味噌が漸く動き出し、口を動かす。
「…もしかして…伊達政宗?」
凄いぞ、脳内麻薬。俺の大好きなゲームのキャラを出してくれるなんて。思えば、この声、この色、この甲冑…全部あのゲームの仕様じゃん!だから記憶にあったんだな。
「すっげー!本物?本物?」
俺が一歩近付くと政宗は三歩くらい離れて間合いを取り、再び剣を抜く。その切っ先が俺の喉に向けられるのを見て、俺は思わず笑みを浮かべていた。
そんな俺を見て、政宗が眉根を寄せる。
「さっきの震えは演技か?」
「演技?んー、政宗の気配が凄いから、こう、なんつーか興奮した。」
今も膝が僅かに震えている。しかしそれは緊張とか恐怖なんかじゃなくって、興奮と興味と、そんなものをグチャ混ぜにしたようなもの。武者震いって単語が頭を過ぎるその瞬間、政宗が一気に間合いを詰める。
「Magnam!」
突き出された右手、剣に纏わりつくような青い雷、そしてその掛け声。ゲーマーの俺は瞬時に政宗の突き攻撃の範囲を計算して横へと避けた。それと同時に俺の横をバチバチッと言う音と共に剣と政宗が通り過ぎる。
この技って背中が無防備になるんだよな。その間に背中に回り込めば勝てるかもしれないけど、流石にこんな常人離れしたスピードについていくのは一般人の俺には無理だろう。
そんな事を思っていると、俺の体はいつもより身軽に、そして素早く政宗の後ろに回りこんでいた。
「あれ?」
俺の声に振り返る政宗の顔には、いつの間に!とありありと書かれていた。
俺自身一体何が起こったのかよくわからない。こんなに素早く動けた事なんて一度もないっていうのに、息が上がったり、筋肉が分断されている事もなさそうだ。一体、どうなっているんだ?

