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高校の卒業式も難なく終わり、俺は長い式の間必死にかみ殺していた欠伸を大きく一つついた。こうやって改めて校舎を見ると感慨深いって、普通ならそんな気分になるのだろうが。
「チャーンス!」
俺はちょっとだけ違う。
皆が肩を抱き合って泣いていたり、一緒に写真をとってる中、俺は一人校舎の中へと入った。四階建ての校舎の階段をすべて登りきり、今まで一度も入った事のない屋上へと足を踏み入れる。
立ち入り禁止の札をはがすと、錆びてしまっている南京錠にガンガンと蹴りをぶち込んでいく。
七回目くらいで風化し始めていた南京錠は壊れた。後は鎖を解いて扉を開けるだけ。
「ぅぉ〜!屋上制覇っ!!」
両手を空に突き上げて叫ぶ。立ち入り禁止って言われるとやっぱり入りたくなるのが人情って奴だが、停学を何回か食らった俺としてはこれ以上の問題を起こす事は避けたかった。だから今までこの場所に入る事はしなかったんだけど…。
今日俺は卒業した!だからようやく停学や退学という切り札にハラハラする事無くこの禁忌を犯す事に成功した訳だ。
…暫くは楽しかったが、所詮は屋上。何も無いこの場所に俺は飽き始めてうろちょろとし始めた。まさか立ち入り禁止の屋上に人がいるなんて考えも及ばないのか、皆俺に気付かないで話をしている。口うるさい生徒指導の先生すら俺に気付かない。
何だかつまらないなぁ…と、心の中で一人呟いたその時。開けっ放しだった屋上の扉から人の気配を感じた。しかもそれは普通の気配なんかじゃなく、俺と同じ、人を殺すという事を知ってる奴の放つそれだった。
折角の卒業式が台無しだと思いながらも口元はヘラヘラと笑っている。そのまま俺は振り返って侵入者に視線をやった。
「お久しぶりです。」
「今日、武器が無いから出直してくれる?今度遊んでやるからさぁ。」
俺の言葉に侵入者は口の端をクッと上に上げた。濃灰のダブルのスーツで、一瞬誰かの保護者なのかと思うような柔和な顔つきの男の手には三十センチ程度の長さの刀が握られている。片手に花束を持って片手に刀なんて、随分とアンバランスだ。
「いえ、残念ながらそれはできません。」
にっこりと俺に笑いかけるその男は俺の商売敵。暗殺者集団の中でも一、二を争うと言われる俺の所属するグループとこの男の所属するグループはいつも互いを牽制しあっていて、こんな風にエース同士が殺しあおうとするのも日常茶飯事。
俺ってば優秀だからこんな風に命狙われるんだよなぁ…。
「お覚悟。」
男が一気に間合いを詰めてくるのを俺は後ろ向きに走って逃げる。いつもだったら持っている護身用の武器は残念ながら鞄の中だ。取り出している間に殺されちまうのは目に見えている。今はとりあえず逃げて形勢を整えるか、この勝負をうやむやにした方がいいかもしれない。
そう思って逃げながら逃走ルートを頭の中でシュミレーションする。
「はっ!!」
目の前を掠める刀に前髪が何束か切られてしまった。折角先週整えたばかりだって言うのに、この野郎。
そう思った瞬間、俺の脚は思いっきり相手の膝を横に凪ぐ様に蹴る。男はそのまま横に転がる事で衝撃を分散しているが、その間に俺は逃走ルートを確定した。
屋上の手すりの外にはまだ三十センチほど足場が残っている。そこを走り抜ければギリギリこいつから逃げられるだろう。
「じゃあなっ!」
手すりに手をかけて飛び越えようとしたその瞬間、俺は変な感触に気付いた。
「げっ!!」
この手すり、腐ってやがる!!
そう思ったが時既に遅し。手すりは俺の体重に耐え切れず変形し、そのせいで俺の体は屋上から飛び出してしまった。流石にこれには相手も驚いたらしい。目を丸くして俺を見るその顔がちらりと見え、そして体が急速に落下した。
落下の衝撃を覚悟して目をぎゅっと瞑るが、痛みは一向に訪れない。そういえば、落下している感覚が無い…?
恐る恐る目を開けると、そこは真っ暗な闇の中だった。
「あー、なるほど。これが臨死体験って奴?」
闇の中、地面も空も重力も何も無い中、俺はぷかぷかと宙に浮いているような状態で呟いた。でもそれにしちゃぁ随分と質素な臨死体験だ。普通、花畑だったり三途の川だったりするんじゃないのか?何でこんなに何も無いんだ?
もしかして俺の想像力って滅茶苦茶とぼしいのか?だからこうなったんだな!?
そんな事を考えていると、ぽぅっと俺の目の前に小さな光が宿る。真っ白なその光を手に掴むと、それは綺麗な青へと色を変えた。
途端、目の前が真っ白に染まった。強烈な閃光に目が痛くなって開けられなくなる。

