「ぁ、かい…?」
俺の目の前に現れたのは真っ赤な色をした瞳だった。良く見知った色、血の色そのものを表したような赤を湛えた瞳。それに俺は暫く見入っていた。
白化個体、という単語が頭に流れてくる。アルビノと呼ばれる、色素が失われてしまう突然変異種の事だけど、片目だけ出るなんて珍しい。オッドアイなんて、それこそ猫の一部くらいでしか見かけないんじゃないだろうか。
「アンタが知ってるかは知らねェが、銀の髪と赤の瞳は鬼の証だ。銀の髪は鬼の一族の中でも良く現れるんだが、瞳まで遺伝する奴はそうそういない。…そのせいか、俺は体力も加護も桁外れよ。」
なるほど、どうして目を見せたのかそれが何となく理解できた気がする。この赤い目が鬼の力を濃く受け継いでる者の証明なんだろう。この世界の人間ならそれを見るだけで元親が凄い力の持ち主であると理解するに違いない。
元親は眼帯を上げていた手を離すと俺から離れて再び着替え始めた。
「あァでも今のは内緒だからな。俺の目の事は、俺のところの部下でも数人くらいしか知らねェ、極秘事項って奴だ。」
「は?何でそんな大切な事教えたんだよ。」
極秘事項のレベルが果たしてどれくらいなのか俺にはわからないけれど、部下を慕う元親ですら数人にしか知らせていないなんて、凄い機密事項だろう。普通じゃ考えられないはずだ。今日会ったばかりの人間に、そんな大切な事をどうして話したりなんか。
問い詰めようとした時、元親が俺の分の手ぬぐいを引っ掴んだ。
「ほら、ゆっくりしてんなよ。政宗が腹ァ立てて乗り込んでくるぜ?」
冗談にならない冗談を口にしながら、元親は俺の脱ぎ途中だった服を手早く脱がせようとする。自分で出来ると慌ててその手を払ってから服を脱いでいる俺に、元親は楽しそうに喉で笑い出した。
「何だよ。」
「いや、こんな風に…。」
じゃれるように元親が俺の腕を掴んで、酒に濡れた体を拭き始める。その顔は子供を相手にする親…よりは若いな。どちらかといえば、手間のかかる弟の世話を焼く兄みたいな表情だ。いつまでも俺の着替えが終わらないのが気になったのかも知れないが、元親だってまだ上半身は裸のままで世話を焼くよりもまずは自分の事をやれば良いのにと思う。まぁ、そういう所がアニキの所以なのかもしれないが。
「こんな風に、自分の血族以外の鬼と会えるなんて、久しぶりだからよォ。」
え?
声が口から出るより早く、スパンと障子が大きな音を立てて開かれる。喉をかすれるように出て行った俺の声はその大きな音にかき消されてしまった。
「Too late!」(Too late!=遅すぎる!)
不満そうな政宗の声と、後ろに引っ張られる感覚。俺を元親から奪い去るように抱きしめる政宗の腕の感覚すら、今は曖昧になっていた。まだ酒を拭ききってないから政宗も汚れるとか、またこのパターンかよとか、色々な事を考えているはずなのに、すべてどこか遠いような気がした。
理由はわかっている。頭の中に元親の言葉が焼きついて離れない。

