酒でグデングデンになった足取りで元親に突進してきた成実。俺の方に意識を集中していたせいか、元親は突然の成実のタックルに耐え切れず俺を巻き込んで畳へと撃沈した。俺の上に元親の巨体があるが、元親は俺を押し潰さないようにと腕で何とか自分の体を支えてくれていた。
もしも元親の動きが遅れていたら今頃は内臓破裂辺りで死んでるかもしれないとしみじみ考えながら、俺の頭の中ではイライラが溜まり始めていた。
それも無理は無いと思う。手に持っていた徳利はタックルの衝撃で手から離れ、中身が全部俺の服にぶちまけられてしまっている。それは俺の上に居る元親も同様で、紫色の服が所々酒で濡れて色を変えていた。
「退け成実。仮にも相手は国主だぞ。」
呆れたように声をかけてくるのは小十郎だろう。首を巡らせようとするも生憎、俺の視界は元親の顔で殆どが塞がれていて碌に周りなんて見えない。それでも小十郎の呆れ顔がありありと目に浮かぶのはやはり、俺が伊達軍に慣れてきた証拠なんだろう。
「ちぇー。」
渋々という声を出しながら成実がどけて、その後元親がどけてくれる。俺も元親も酒臭くなっていて、お互いに視線を合わせて苦笑し…そして二人して成実を睨み付けた。
「「何するんだよ!」」
丁度俺と元親の声が重なれば、成実は何で怒られたのかわからないといった具合に目をキョトンとさせてこっちを見てくる。それは一見すると犬のようだが、成実の本性を知っている俺と元親はそれに誤魔化される事なく苛立ちを思い切りぶつけた。
とはいえ、成実のサディスティックな部分に勝てる訳なんて無い元親と、元親と同じく伊達家のサディストに弱い俺なんかが直接成実に手を下せる訳も無く。俺と元親は殆ど同時に鬼庭さんへと視線をやった。
その視線の先を見て成実が顔を強張らせたのは言うまでもない。
躾けの悪い犬は、ちゃんと専門の人に頼むのが一番なのだ。
「鬼庭の兄さんよォ、ちィと頼みがあるんだが。」
「成実が勿体無い事してたから、叱って欲しいんだけど。」
勿体無い、その言葉に遠くで徳利を傾けていた鬼庭さんの動きがピタリと止まった。そして酒に濡れてしまっている俺と元親、それからしまったという顔をしている成実を見てから、納得したというように一度頷いてみせる。
その背後に黒いオーラのようなものが見えた気がした。風の特殊技が使えるはずなのに、何なんだろうあの黒いオーラは。
不思議に思うけれど、今の俺にはそれよりも何よりもまずは酒臭い自分をどうにかしたいところだ。それを考えていたのは元親も同じらしい。ただ単にこれ以上鬼庭さんを直視したくないって言う部分もあったとは思うけれど。
「とりあえず服をどうにかしてェな。海水を浴びるのは慣れてんだけどよ、酒はちょっとな。」
臭くて仕方ねェ、そう呟く元親に俺も頷いてみせた。服に吸収された酒が体温で蒸発しているのかアルコール独特の匂いがむせるくらいに鼻をついてくる。
「俺も服、どうにかしたいな。これは流石にキツイ…。」
「随分と酷い有様だな。OK,女中を呼んで空いてる客間に着替えを準備させろ。二人とも、着替えが終わったらすぐに帰って来いよな?すぐに、だ。」
何故か政宗はすぐにを強調させてから俺と…そして元親とを見つめた。元親に対する視線が生半可じゃなく強いものだったのは何らかの牽制だろうか。
元親が俺を自軍に引き抜きたがってるのをわかっているからこその威嚇なんだろうけど、まさか酒の席ですらそんな事をするようには思えない。ただ単に、すぐに噛み付いてくる政宗の反応を楽しんで俺に引っ付いている気がするんだけどな。
俺達を案内する女中さんの後ろをついて席をはずす。その後ろで成実の必死の弁明のような言葉が聞こえたけど、すぐに止んでしまった。振り返ったら地獄絵図かもしれないな、そう思っていると、俺の後ろを歩いていたはずの元親が俺を追い抜いてから、必死な形相でこっちを見てきた。…地獄絵図を見ちゃったんだろうな。
顔面蒼白とまではいかないものの、かなり怯えている元親を落ち着かせるように数度肩を叩いてやって、それから視線だけで前を歩く女中さんを示して見せた。少なくとも、俺達の着替えが終わった頃には鬼庭さんの機嫌も元に戻っているだろうと…多少の希望的観測は入るにしろ、そう思いながら歩く。
「お着替えを準備いたしました。」
案内された客間には女中さんが一人居て、さも当たり前というように部屋の中で待機している。着替えるの手伝いますよ、って雰囲気を出されて俺は怯んだ。
政宗の直属の部下とは言え、現代社会で培った部分を拭いきれない俺は、着替えをいつも頼まない。着替えを手伝ってもらう云々というのは納得できるけど、それが異性となると話しは別だ。だから着付けに関してはスパルタ指導の名高い小十郎にお願いして必死に習得した。
でも俺はともかく、元親だよな。多分、国主って事もあるし自分で着付けとかしないんじゃないだろうか。そう思っていると、元親は大丈夫だから下がるようにと女中に指示を出した。

