なんというかやっぱり何度見ても凄い光景だと思った。
前回は自分が主役だったからこんな風に第三者的に見る事なんて無かったからわからなかったけど、これほどまでに凄まじい宴会は無いだろう。野放図というか何と言うか、とにかく、凄いとしか言い様が無い。
「おい、お前ェら、ちゃんと飲んでるか!」
「「勿論ですぜ、アニキイィィィイイイ!」」
無駄にテンションの高いアニキコールが湧き上がる中、それに負けじと伊達軍が声を張り上げる。
「Hey,西海の奴らに負けるんじゃねぇぞ、Partyはこれからだぜ!」
「マ・サ・ム・ネエエエェェエェエエ!」
「よし、今政宗様を呼び捨てた奴は前出ろ。…叩き切る。」
突っ込み所は沢山有る。どうして元親親衛隊みたいなノリに伊達軍がなってるんだよとか、どうして酒の席で若干本気モードになりながら小十郎が太刀に手をかけようとしてるんだよとか。
そう、今は酒の席。雪の中遠路遥々、奥州にやってきた長曾我部軍を歓迎する為の宴の席だけど、このフリーダム加減は酷すぎる。でも一番の問題はこれだな。
「…どうして、俺の両隣が国主なんだよ。」
苦々しく呟けば、酒の席で沸き立っていた広間の空気がピタリと止まって殆どの奴が俺の方を見た。
「そりゃ、様は筆頭の気に入りですから!」
伊達軍の一人、リーゼント頭がそう叫べば長曾我部軍のサラサラストレートな奴が声を張り上げた。
「うちのアニキも、様を気に入ってまさぁ!」
うん、とりあえずアレだよな。一つの玩具を子供二人で取り合った結果みたいな事に今なってるんだよな。この座席を考え出した鬼庭さんにチラと視線をやれば、小学校の先生みたいな笑みを浮かべてこっちを見ていた。
酒の席が始まる前に俺の隣をかけて争いだそうとした政宗と元親の肩をガシリと掴んで、仕方ないから仲良く半分こでどうですか。と鬼庭さんが言ったのは記憶に新しい。
「なァ、酌してくれよ。」
俺の肩に腕を回して引き寄せながら、元親が絡んでくる。その息は酒臭いものの顔は赤くすらなってない。一体何本目かわからない徳利を俺の目の前に突き出して笑う仕草は、酔っ払い独特の絡みなのかそれとも素面なのか。まぁどちらにしろ俺の状況は変わらない。
元親が俺の肩を抱くより早い段階から腰に回っていた政宗の腕に力が籠もり、ギュッと自分の方へと引き寄せようとする。違う方向に二人して引っ張り合うせいで胴がミシミシと悲鳴を上げた。
冗談抜きで俺自身が半分にされかねないこの状況。もがく俺を挟んで政宗と元親が睨みあう。
「Oh,生憎ウチのは俺専属でな。」
「あァん?独り占めは良くないぜ、独眼竜。」
俺を挟んで喧嘩を始めた二人を、既に酔いが回り始めた奴らはヒューヒューと囃し立てる。
完全に臨戦態勢になった二人はお互いにお互いを威嚇するのに手一杯らしく、徐々に腕の力が抜けていって俺は漸く体が真っ二つになるんじゃないかって恐怖から抜け出す事ができた。今の内にどこか安全な場所…この場合、安全な場所と言ったら鬼庭さんか小十郎の傍になると思うんだけど、鬼庭さんの場合は逆に怖い目に遭いそうな気がする。
そう考えた結果、俺は一番常識人っぽい小十郎のところへと行こうとした。
膝立ちになっていざばれない様に、そう思って一歩足を踏み出そうとした俺の肩を逃がさないとばかりに掴んだのは、元親だった。機敏に俺の変化に察知したのか、それとも偶々なのかどちらにせよタイミングが悪い。俺が逃げようとしたのが政宗にバレたら、思い切りセクハラ紛いのスキンシップをされるか物凄いサディスティックな笑いを浮かべて言葉で苛められ続けるか…二つに一つだろう。
どうするか、咄嗟に考えて浮かんだのが、何とか誤魔化す方法だった。
「酌、してやるよ。」
膝立ちになったのは、中身の入ってる徳利を取る為なんですよ。ってアピールするようにちょっとゆっくり目に大きく告げれば、俺の肩を掴んでいた元親は勿論、政宗までもがキョトンとした顔のまま動きを停止させた。
まぁ、いつもそんな風に気を使うような事なんてしないから政宗もびっくりしているんだろう。
「流石は俺の見込んだ男だぜ。酌すらケチる政宗に見習わしてやりたいくらいだな。」
「OK,そうと決まりゃ、頂くぜ。」
これ見よがしな元親の嫌味をあまり気にした様子は無く、政宗は当たり前のように俺の目の前にいつの間にか空になっていた杯を差し出した。
それを見て対抗するように政宗の杯を押しやって元親の手。それを叩いて政宗の手。互いに酒を取り合う姿は何処か滑稽だけれど、当人達の顔つきは至って真剣そのものだ。酔っ払い独特のテンションもあるんだろうけれど、そこまでして頑張って酌をしてもらう必要性って一体何処にあるんだろう。
そう考えてから俺は小さくため息を吐いた。多分、理由なんて無いんだろう。ここまで来たら、ただ単に酌をやってもらいたいっていう執念だけで動いているんじゃないだろうか。
「じゃあ先に杯を出した政宗からな。元親もすぐにやるから。」
政宗が先だと言った途端に、元親はいかにも不満ですって言っているかのように唇を僅かに尖らせて見せた。多少の飲むタイミングが送れたところで酒の飲める量は決まっていると思うんだけど…。元親は一体どれだけ政宗に対抗意識を燃やしているんだか。
これなら小学生の方がまだ退き際を心得てるんじゃないかって思いながら、政宗の杯に酒を注ぐ。それが終わると、すぐさま元親は自分の杯を俺の目の前までグイッと差し出してきた。
その時だ。
「酌して欲しいんなら俺がしてあげるよ、長曾我部の兄サン!」

