14.
俺の目の前には、不機嫌そうな政宗が居る。そしてその隣には何故か拗ねたような様子の元親まで居る。俺は思わず顰めていた眉間を押さえるようにしてから、二人へと声をかけた。
「何で、俺の部屋に居るんだよ。二人して。」
「そりゃ、アンタが気になるからに決まってるじゃねェか。」
一番の疑問をぶつければ、待ってましたというように元親がパッと顔を輝かせた。そして膝立ちになってこっちへとズリズリ近寄ってくる。しかしそれを遮るように政宗が腕を伸ばして元親の眼前を遮り、そしてそのままラリアットを喰らわせた。
「うぐぉ!」
「畳に沈んでろ。」
フンと鼻息荒く、文字通り畳へと元親を沈めた政宗が吐き捨てる。そして俺の隣に座ると、畳に仰向けになっている元親にギロリと視線をやった。その色は牽制とか威嚇とかそんなニュアンスが含まれている。
でもそんなものに元親が怯む訳がない。それどころか威嚇する政宗の視線に反応して顔を輝かすと、すぐさま畳から起き上がった。
「は伊達軍の重要なPositionにいる奴だ。そう簡単に手放すかよ。」
政宗は自分のものだと言うように俺の首に腕を回して抱きついてくる。しかしこの体格差から、どちらかといえば抱きつくというよりも固め技のように思えるのは仕方ないだろう。
密着してアピールするなんて、一体何処の小学生だというツッコミを入れてしまいそうになるが、政宗のスキンシップが激しいのは別に今に始まった訳でもない。これで元親がそんな政宗を見てうわぁ…って顔をしているなら流石に俺もこの状態から逃げようとするけれど、元親はスキンシップ過剰な政宗なんて気に留めていない。むしろ当たり前のように目の前で繰り広げられる固め技並みの強いハグの様子を受け入れている。
「だからこそ欲しくなるんだよ。右目に、爪…アンタは宝を一杯持ってるんだから一個ぐれェくれてもバチ当たんねェってのに。」
「What?右目も爪も無い竜じゃ格好つかねぇだろうが。それに逆鱗を奪われちゃ、死活問題だ。」
政宗の言葉に詰まらないというように唇を尖らせて講義する元親。確かに右目と呼ばれる小十郎の絶対的な忠誠心は半端無いものだし、六爪流の為だけに打たれたんだろう刀も天下一品の品に違いない。元親の興味をそそるには十分なものだといえるだろう。
でも一つ、俺にはあまり耳に馴染みのない音があった。
「げきりん?」
逆鱗に触れるっていう慣用句みたいなのがあった気がするけど、そのげきりんって一体何なんだろうか。どういう意味なんだと未だに俺を抱きしめている政宗に視線をやれば、政宗は知らないのかという風に片方の眉を器用に上げて見せる。
「逆鱗ってのは竜の喉元にある、一枚だけ逆に生えてる鱗の事だ。それが竜の命の源だとも言われているな。」
なるほど、それじゃあ逆鱗に触れるってのは命の源と呼ばれるほど大切なそれにうかつに触れたら怒られるぞってニュアンスなんだろう。
疑問は一個解消したけれど、解決と同時にもう一つ疑問が浮かんでくる。右目は小十郎、爪は刀。だとすればその逆鱗ってのは一体何を表しているんだろうか。それを問おうとするよりも早く、俺の耳に大きなため息が聞こえた。
俺を抱きしめる政宗の顔はいつも通りの不敵な笑み。だとするとため息を吐いたのは…そう思って視線を移せば、元親が残念そうな目をしてこっちを見ていた。
「そんだけ大切なら尚更!ってなるけど、その執着加減からするに、無理そうだよなァ。」
ジッと俺を見つめながらしみじみという元親。その視線から漸く、さっき言ってた逆鱗が俺の事を刺しているんだと気付いた。命の源とか、大分大げさな表現をされていた気がするんだけど、比喩にしても若干やりすぎの気がする。
でもまぁ、元親を諦めさせるにはそれ位言わなきゃいけないのかもしれない。現に今も俺を見る目は、名残惜しそうだ。
「わかったんなら諦めな。」
俺を抱きしめなおしてシッシッとまるで犬を追いやるように手を動かす政宗に、元親はムっとしたように唇を尖らせていたが、すぐさまヘラリとした笑いを浮かべた。
そして突然何を考えたのか、俺を抱きしめる政宗ごと俺を抱きしめてきた。
「むぐっ…!」
元々がっちりと抱きしめていた腕で僅かな圧迫感があったとはいえ、元親は力加減ができていないのか政宗ごと俺をすりつぶす勢いで抱きついてくる。政宗の腕が俺の顔にめり込んでくるんじゃないかってくらいだ。場所が若干ずれて顔になったから良かったものの、これが首だったら確実に呼吸困難になっていただろう。
「そん代わり、また模擬戦で遊ぼうな!政宗も楽しいけどと遊ぶのも気に入ったぜ。」
「わかったから離せ、死ぬ!」
このままだと政宗の腕が顔面にめり込んで頭蓋骨がグシャってなる。それ位に元親の腕力は強い。やっぱり戦国武将の力は伊達じゃ無いな。
そんな事を考えていた時だった。廊下をズダダダと盛大な足音が駆けてくるのが聞こえる。それが徐々に大きくなっていくのを聞いて、突然俺達を抱きしめていた元親の腕の力が弱まった。どうしたのかと思って見上げれば、さっきまでの楽しそうな表情から一転して焦ったようなそんな表情を浮かべている。
「やべェ…来やがった!」
俺達をあっさりと解放すると元親は慌しく部屋の中をうろうろとし始める。押入れとかを開けたり、文机の下にもぐりこもうとしたり、どうやら隠れようとしているみたいだが、どちらにしろ元親のようなデカイ体を隠せるようなスペースなんて存在しない。
そんな中でも足音はこちらに向かってやってくる。

