俺はウキウキしている元親の腹を肘でつついて止めておけというように視線を送ってみせた。政宗よりも大きな身長とガタイに、どうしても見上げるような視線になってしまうのが悔しい。標準の身長より数センチ高いポジションを維持してきた俺からすると屈辱的だ。
 元親は俺の視線に気付いてこっちを見つめるがわかっていないのか首を傾げている。しかし意図を理解しようという気はあるらしくじっと俺を見つめているが、如何せんよくわかっていないようだった。
 どうしたもんかと思った矢先に俺に向けられた殺気。…どうして俺にまで殺気向けてるんだよ、政宗。
「おい、随分元親と仲良いじゃねぇか、Ah?」
 躾け直しが必要か?そう問い掛ける政宗の声は若干の笑いが含まれているが、その笑いはいつも通りのサディスティックな笑い方だ。間違いなくやられる。何をやられるのかとか、よくわからないけれど直感がそう告げた。
 俺は慌てて元親から離れようとした。政宗の言葉の言い回しからして、俺と元親が仲良くしているのが気に食わないらしい。ただでさえサディストな政宗を逆撫でするのは危ないだろう。しかし俺が逃げようとした矢先、その腕を元親がしっかりと握り締めた。
 そして、ボクシングの審判が最後に勝者の手を持ち上げる時みたいに、俺の掴んだ手ごと一気に腕を高く上げる。
「コイツは頂くぜ!」
「ちょ!なに勝手に決めてんだよ!」
 俺が声を荒げて反論するが、元親はそんな俺の反応すら楽しんでいるようにゲラゲラと大きな声で笑い出す。その視線の先には、そんな言葉に煽られて苛立つ男が一人。
「…相変わらず行儀の悪ぃ野郎だな、御仕置が必要か?」
 政宗の言うオシオキが何を示しているのかは知らないが、多分一生知らなくて良い事だろう。
 構えられたのは六本の刀。多分刃は潰してあるんだろうけど…この覇気じゃあ刃が有ろうが無かろうが、八つ裂きにされるんじゃないだろうか。そんな命の危機に晒されているにも拘らず、元親は楽しそうに笑っているだけだ。自分の力を信じているのかなんなのか知らないが、それに巻き込まれた俺からすれば迷惑な事に変わりない。
「来いよ政宗!久しぶりの模擬戦だぜェ!」
「Ha,模擬戦だろうが何だろうが、泣いても許してやらねぇぞ。」
 元親が俺から碇槍を奪い取る。と言っても俺の頭の中は如何に政宗に怒られないようにするかで一杯だったから、武器を奪い返すのは容易かったんだろう。そしてそのまま元親は一直線に政宗の元へ。政宗も政宗で、一直線に向かってきた元親に嬉々として刀を奮っている。
 暫くその二人のやり取りを見ていて俺は思ったのだけど、やっぱりあの二人は似た物同志なのだろう。根本は正反対なのかもしれないが、戦いになると色んな事が吹っ飛んでしまって、目の前だけに集中してしまう部分はそっくりだ。
 俺を貰う云々の話しはまるで最初から無かった事の様に、二人は互いの武器を打ち合って笑みを浮かべている。俺を自軍に入れるという元親の言葉は多分その場のノリだったんだろう。俺はそう思って二人の戦いに決着がつくのを遠くから眺めて待っていた。
 結局その戦いは決着がつく前に、絶対零度の微笑みを浮かべた鬼庭さんの登場によって引き分けになったんだけど、二人は城に着くや否や鬼庭さんと小十郎に連れて行かれてしまった。俺はというと、二人を止めなかった事に対しての多少の小言は言われたものの、そもそもこの二人が制止した所で止まらないと知っているからだろう、すぐに開放されたのだった。
 めでたしめでたし。そう思う俺の耳に、城中に響き渡るんじゃないかってくらいの小十郎の怒声が聞こえた気がしたけど、あえてスルーした。