でも蒸発した部分が元親に近い部分、下の場所だった事がいけなかったんだろう。蒸発した水蒸気はすぐさま上の方に残っている雪に冷やされて水になった。それが思い切り、バケツをひっくりかえしたみたいに元親に降り注ぐ。
 それに驚いて集中が途切れたんだろうか、雪の蒸発が突然止まってしまう。結果としてずぶ濡れになった元親にとどめを刺すように、残っていた雪だるまの頭の部分がドサッと直撃した。
 水で濡れた上に雪…炎の技が使えるにしろかなり寒いんじゃないだろうか。多少なりとも攻撃になればと思ったけど、まさかこんな事になるとは思っても居なかった俺は、半ば呆然として元親を見ていた。
 その時だった。
「Hell Dragon!」
「痛ェェえ!」
 活き活きとした声と同時に、俺達のすぐ横を青光りする稲妻が走り抜けていく。溜めが無かったのか威力はパッと見そこまでじゃなかったけど、これが当たれば大分痛いんじゃないだろうか。それが水浸しになった元親にぶつかった。
 何だか可哀想な悲鳴が聞こえたような気がしたけど、まぁ鬼の眷属って奴なんだしきっと大丈夫だろう。むしろそんな攻撃を俺に当たるギリギリに出すってどういう了見だ。
 俺は批難するようにその声のした方向へ振り返った。
「危ないだろ、今の!」
「Ah?俺を置いていった罰だぜ。当たらなかっただけマシだと思え。」
 グル…とまるで猛獣の唸り声みたいな低い声で政宗が俺を睨みつける。どうやら自分だけ置いていかれたのが寂しかったらしい。でも拗ねるならもう少し安全な方法でやってもらわないと、体力が人間離れしているとはいえ俺の体が保たなそうだ。
「だからって水に濡れてる時にアレはねェだろうが!チィっ、ビリビリするぜ…。」
 苛立ちを政宗に向けていたせいで気を抜いていた。俺のすぐ後ろから投げられた批難の声に、俺は慌てて身構えるもそんな俺を笑うように白い腕が後ろからニュッと伸びてきて俺を思い切り抱きしめた。
 いや抱きしめたなんてもんじゃ無い。がっちりホールドされた挙句に締め上げられている。
「人の部下をかどわかそうとするからだ、当然の報いって奴だぜ。You see?」
 かどわかすって滅多に聞かない単語だけど、連れ去ろうとかそんな感じだったんじゃないだろうか。だとしたら政宗はもしかして俺が元親に長曾我部軍に誘われているのを聞いていたのか。
 だとすればさっきの八つ当たりにしては随分物騒な行動も理解できる。一応俺も伊達軍の一員な訳だし、自分だけ置いていかれた事にプラスして部下が引き抜きされそうになったのを見てイラっときたんだろう。
 だからと言ってあの技はどうかと思う。確か固有技でも一番最後に覚える技だろ、破壊力半端無いんじゃないのか?
「仕方ないだろ、性分なんだよ。あ、、捕まえたからお前俺の物だからな!」
 最初の一文は政宗に。最後の一文は俺に。元親の発した言葉に俺と政宗は何故か互いに視線を重ね合った。
 それから無言のままに視線だけのやり取りが交わされる。と言っても、小十郎と政宗ほどのクオリティの高さは無いけど。…どういう意味だよって顔をするから、俺は知らないという風に軽く首を横に振ってから元親を示すように視線をやる。だって了承も何もしてないのに勝手に捕まったら長曾我部軍に入軍とか、勝手に決められたんだし。
 それだけでどれくらいが伝わったのかはわからないが、とりあえず元親が悪いってニュアンスだけは精一杯に込めてみたら、どうやら伝わったらしく。
 政宗が元親に殺気を向ける。元親はというとそれに当てられてパッと顔を輝かせていた。覇気を向ける事で遊ぼうって表現するような男だから、多分政宗の殺気に気付いても楽しみとかの方が勝るんじゃないだろうか。
 俺も殺気とかのピンとした空気に晒されると高揚した気分になるけど、元親のそれはもっと純粋なものだ。殺意も遊びも殆ど同じものとして扱える辺り、単純なのかもしれないが。
 とにかくこのまま放っておいたら戦闘が始まりかねない。小十郎は俺と元親の喧嘩を許してくれたけど、政宗が関わるんなら話しは別だろう。鬼庭さんが小十郎にベタ甘いのと同じ…もしくはそれ以上に小十郎は政宗贔屓だ。戦いが始まった暁には、どうして止めなかったんだという一喝に始まり、政宗が怪我をしたらどうするだとか延々とお説教を受ける事が目に見えている。