「グ…ッ!」
 まさか防御の槍を掴まれると思っていなかったのだろう、油断していた元親の腹部…鳩尾ではなくてやや横に逸れた部分を狙って蹴りを決めれば、その勢いで元親が鈍い悲鳴と共に後ろへと軽く押しやられる。ついでに言うと俺が蹴った部分は丁度肝臓の部分になっている。鳩尾とは違い急所という急所ではないが、そこに思い切り衝撃を与えられるとかなり痛い。あまりの痛みに嫌な汗が一気にドバッと出てくるような場所だ。
 一回転の後にすぐさま地面に足をつけると、俺は碇槍をそのまま奪い取った。肝臓に入れた一撃が効いたのか、元親の握力が緩んでいたらしい。
 奪い取った碇槍を担ぐとニィっと笑みを浮かべて元親を見やる。それはまるで、さっきの俺と元親の立場が逆転したようだった。
「どれ位の力を出すべき相手かくらい、一見でわかれよな。」
 戦いというよりは喧嘩に近い、殺意も無いこのやり取り。とはいえ、それがイコールで手を抜いても大丈夫という訳ではない。俺を舐めてかかった報いって奴だ。
 剣とはまた違った槍独特の重みが肩にのしかかる。まして元親の碇槍は普通の槍とは違って先端に重心が置かれた大分特殊な形をしている。重みが先端にあるという事は梃子の原理も相まっているから、実際に感じる重量は半端じゃ無い。多少よろめきはするけれどこれを易々と扱うなんて、やっぱりゲームキャラって凄いな。
 そんな事を考えていると、俺の目の前に元親の拳。それが僅かに陽炎を纏っているのを見て瞬時に間合いを開ければ、五羅を発動し損ねた元親がすぐさま間合いを詰めてくる。
「なァ、。」
 額に汗を浮かべながら…多分その汗はさっき俺が攻撃した時のものなんだろう…元親は俺に声をかける。攻撃しながらだっていうのに、その顔には笑みさえ浮かんでいる。
「アンタ俺の軍に来い。」
「は?」
 突然の申し出。一回打ち合った、というか攻撃を交わしただけの奴を自軍に引き込もうなんて普通は考えないんじゃないのか、そう思って、俺が伊達軍に入るきっかけも実はそれと大して変わらなかった事を思い出す。もしかしてこのゲーム内では当たり前の事なのか?
 いやいや、そりゃ確かにここはゲームだけどあくまで戦国時代だ。いつ首を獲られたっておかしくない綱渡り的な毎日を送っているはずだ。
 それなのにどうして俺を…?怪訝そうな顔で元親を見やれば、元親は俺の間合いに入り込む。しかしそれに攻撃の意図は見えない。むしろそんな俺の事を、元親は不思議そうに眺めていた。
「何で驚くんだ?さっき、気に入ったって言っただろうが。」
 まさか本当に、気に入った云々だけで人を自分の軍に入れようとしているのか。その突拍子も無い発案に俺は小さくため息を吐いた。少なくとも俺のいた場所…現実でそんな事なんてやろうものならすぐさまそんな組織は破綻するだろう。
 だけど絶対の確信を持った表情は一向に崩れない。俺が絶対に必要な人材だと信じているその瞳は、俺を自軍に取り入れると断言した政宗のそれと重なった。隻眼だから、という訳では無いだろう。政宗と元親は確かにノリが似ている部分があるけれど、根本が違っている。
 どちらも国主であって、どちらもノリが良くて。しかし元親の根本には好奇心がある。その代わり政宗の根本にあるのは好奇心とは反対の、理性だ。国主としての顔をチラチラと覗かせるような事が政宗と対峙すると良く見受けられるし、何より一番最初に俺を城に連れて行った時の政宗の顔は俺の力量を把握した上での、大人の打算や計算が渦巻いていて。
 それなのに元親にはそれが全然見られない。純粋に俺への好奇心だけが、軍への誘いの原動力になっているんじゃないだろうか。
 この二人は良く似ているけど、その点では正反対の場所に居る。多分だけど。
「まぁ、アンタに選択肢はねェけどな。気に入ったものは何としてでも手に入れてみせるのが海賊の流儀だ。…嫌なら逃げな?逃げ切れたら勘弁してやらァ。」
 コレが本当の鬼ごっこだな、そう笑いながら俺が担いでいた碇槍に手を伸ばす元親。武器を奪還するつもりかと槍を持つ手に力を込めれば、元親の腕は俺の肩を掴んだ。そしてそのまま自分の腕の中へと俺を抱き込もうとする。
 身を捩ってかわすついでに、拒絶の意味を込めて地面の雪を元親に向かって蹴り上げた。今回は力を込めて思い切りだ。
「無駄だ…っ何ィ!?」
 蹴り上げられた沢山の雪が一気に元親に向かって白波のように襲い掛かるが、またシュゥと音を立ててすぐさま蒸発してしまう。しかしその量の多さで水蒸気が発生した。それが煙幕のような役割をして元親の視界を遮る。
 流石にそこまでは計算していなかったんだろう、水蒸気に包まれた元親は急いでそれを振り払おうとしているのを確認してから、俺は碇槍を上に掲げた。
「ゆーきや、って…流石にコレは恥ずかしいな。」
 全部言い切ろうとして、その掛け声とかが許される年齢は流石に過ぎていると思って自重する。とはいえ、掛け声が無くても技はちゃんと使えるらしく。
 俺が碇槍を振り下ろした瞬間、曇天の空から大きな雪だるまが元親目掛けて落ちてきた。いつきの技、雪だるま警報が果たして元親の炎の力を圧倒できるのか否か、それはやってみなくてはわからないけれど、本気でかかってこない以上それで十分だろう。
「のわっ!」
 ボシュン、という大きな音。元親の頭の上に垂直に落下していく雪だるまが、蒸発した。