13.
 こっちが本気でいくという事はつまり、同じようなノリをしている長曾我部軍も同じく本気で来る、という事なんだろうな。それが何を意味しているかと言うと…いや、そのままの意味か。
 俺は目の前で繰り広げられている大人達の全力雪合戦をボーっと見ていた。双方にバリケードが設けられ、一進一退の攻防戦を繰り広げている。
 雪玉が飛んでくるのを避けるのが、俺の役割らしい。
「はいハズレ。」
 ペシャ、とやる気の無い音を立てて地面へとぶつかって大破する雪玉。俺目掛けて雪玉を投げた奴は、それの隙を狙った伊達軍の投手にやられてさっきの雪玉よろしく地面に潰れた。
「長曾我部軍はこんなもんかよ。」
 挑発するようにハッ、と鼻で笑ってからこっちに攻撃を仕掛ける長曾我部軍を一瞥する。政宗をイメージしながらやったそれは挑発として大分良い効果があったらしく、一気に俺に向いた視線達。そしてそれを好機とばかりに横槍を入れるように雪玉を一斉に投げつける伊達軍。
 つまり俺は囮の役割をしているらしい。俺の挑発を真に受けて攻撃をしようとする敵の隙をついて、攻撃。そのフォーメーションのお陰が徐々に伊達軍の方が有利に事が運んでいる。
「なぁ小十郎、飽きた。」
 ずっと逃げ回るってのは退屈なものだ。投げる側を一度もやらない雪合戦が一体どれだけ辛いものか…小十郎に一度体験して欲しい。ついでにいうと、小十郎は伊達軍の武器である雪玉の製造部隊を指揮しながら、物凄い勢いで雪玉をこしらえている。
 その握力が半端無く強いのか、雪を通り越して氷玉なんじゃないかって思うような透明度の高いものが生産されているのは気のせいじゃ無いだろう。多分、長曾我部軍が追いやられている理由には氷をぶつけられた事によるダメージのでかさも有るに違いない。
「飽きたじゃねぇ、お前がコレ投げたら死人が出るだろうが。一体どれだけ硬くしてると思ってやがる。」
 どうやら氷玉生産は意図的に行われているものらしい。大の大人が全身全霊を込めて行っている雪合戦にそんな子供っぽいあからさまな反則を使うのはどうなんだろうか。いや、ぱっと見わからないような、中に石を入れるとかそういうのも駄目だけどさ。
「故意かよ、それ。怪我人出るぞ。」
 呆れ半分でツッコミを入れる俺の足元に雪玉が投げられるのをあっさりとジャンプで交わし、ツッコミを入れる。小十郎は俺のツッコミなんて知った事かというように、雪玉を作る手を休める事無く口を開いた。
「ウチの軍じゃなきゃ問題ねぇ。」
 俺が長曾我部軍に再び同情したのは言うまでもない。
 そんな小十郎に伊達軍の面々は惚れ惚れとしながら、氷玉を長曾我部軍に投げつけている。
「やっぱり小十郎様は最高に”くぅる”でさぁ!」
「おらおら、特製雪玉喰らいやがれぇ!!」
「戦に卑怯もクソもねぇぜ!死ねやぁ!」
 冗談抜きで死人が出るかもしれないから物騒な事を言うのは止めておけと思いながら、妙な方向とはいえテンションが急上昇している伊達軍。俺はというと、本当に飽きてきてどうしようもなくなってきた。皆が楽しそうに雪玉投げてる中で一人何もしないって、結構辛いんだぞ。わかれよ。
 長曾我部軍はというとこっちの士気が上がる毎に徐々に戦意が喪失されていっているらしい。一番最初に会った時のテンションはガタ落ちして、今じゃ防戦一方だ。俺に雪玉を投げつける事すらしてこない。
 この際とっとと本陣行って、元親に思い切り雪玉ぶつけて終わらせてきても許されるんじゃないだろうか。そう考えていた時だった。
「防護壁破壊!」
 小十郎の低い声が響き渡ると同時、伊達軍の雪玉が長曾我部軍のバリケードに向かって一気に集中砲火を始めた。バリケードと言ってもそれは雪をブロック上に切って積んだ物に過ぎない。雪玉を投げつける程度ならびくともしないだろうが、氷となれば話しは別だ。
 あっという間にバリケードが氷によって抉られていく。それに慌てて長曾我部軍が攻撃を再開してくるが、バリケードがいつ壊れるかともわからない恐慌状態に陥った軍は最早機能を果たしていない。コントロールが狂った雪玉がこちらにむかって投げられるが、すぐに地面に落ちてしまう。逆に攻撃に向かった奴等が仕留められるという状況だ。
 長曾我部軍の軍は撤退を余儀なくされるだろう。そう思った矢先、バリケードへと投げつけられていた氷玉の殆どが一瞬にして消えた。
「っ、どうした!?」
 珍しく驚いたような小十郎の声。伊達軍の面々からも動揺が伺える。そんな中、数名がもう一度同じように氷玉をバリケードへ投げつけたが、先程と同じく一瞬にして消えてしまった。
「甘いねェ。」
 低く響く声は何処か楽しげな色を含んでいる。聞き覚えのある声に俺は声のした方向、長曾我部軍のバリケードの奥へと視線をやる。と、バリケードの向こう側から突然地響きが起こるんじゃないかってくらいの雄たけびが上がった。
「「「待ってましたぜ、アニキぃ!!!」」」
、戻れ!」