「仲、良いんだな。」
「Of course!」(Of course =勿論)
 俺の言葉に素早く返答する政宗。活き活きとした声でそう返すと次の書類へと手を伸ばす。
 成実と対している時も政宗は楽しそうにしている。小十郎に見つかる事無く如何に部屋を抜け出すかの企てをしている時とか、悪戯を一緒に考えてる時なんかはかなり楽しそうだ。でもそれとは少し違う顔つきだ。
 小十郎を相手にしている時とも、鬼庭さんを相手にしている時とも違う、年齢相応の顔が覗いた瞬間だった。
 まぁ、政宗からすると伊達軍は家族同然で友人というポジションではない。懇意にしている幸村も友人という枠ではなく、ライバルとしてだろう。国主同士として対等に政宗と対峙し、年齢も近い元親はその点、友人と言う枠にピタリと当てはまるのかもしれない。
 そう思って政宗を見ると、何だか微笑ましい感じがした。つまり、元親と遊びたいから仕事を頑張っているって事だろ?夏休みをエンジョイするべく宿題を早く片付けようとしている小学生の姿が政宗の今の姿に重なって見え、俺は思わず内心で吹き出すように笑った。
「今日は見張らなくて良いぜ。アイツが来るのに抜け出したりしねぇよ。」
 とっとと終わらせて盛大に出迎えてやるぜ、やーはー!そう叫ぶ政宗の背に、いつもそれ位の気合で仕事に立ち向かってくれよと声なき声で呟いてから俺は立ち上がった。
 理由はともかく、やる気があるなら大丈夫だろう。政宗の集中力は半端無い。
 部屋を出た俺は久しぶりの暇に少々戸惑っていた。いつもなら昼頃まで政宗の仕事を監視して、午後から小十郎の畑仕事の手伝いをするんだけど…。
 廊下をパタパタと早足で通過する女中さん達。きっと元親をもてなす為の料理の準備に追われているんだろう。それにつられるように伊達軍の面々も慌しく動いていた。俺も何かするべきなんだろうかと思って声をかけてみるも、皆が皆、大丈夫ですの一点張り。
 一体どうしたものかと考えていると、廊下の向こうから見知った顔がやって来る。俺はナイスタイミングとばかりにそちらへと走り寄った。
「小十郎!」
「邪魔だ、どけ。」
 どうやら小十郎もかなり忙しいらしく、俺が何か言うよりも早く二つの単語を放って通り過ぎようとした。でもここで逃がしたら俺は本当に何もやる事がなくなってしまう。俺は必死に通り過ぎようとする小十郎の裾を引っ張った。
「暇なんだよ、何か仕事くれ。」
「はぁ?政宗様は」
 どうした、と続くよりも早く、能天気な声が俺達の会話に割り込んできた。
「小十郎!俺の隊は準備できた…って、も参戦すんのか?」
 参戦、と言う言葉に俺は敏感に反応した。それを見て小十郎が何か思いついたというようににやりとした笑いを浮かべる。
「成実、も連れてってやれ。暇しているらしいからな。」
 トンと軽く背を押して成実へと俺を追いやると、小十郎は忙しそうにすぐさま廊下を早足で歩いていってしまった。残された俺といえば、一体何がどうなっているんだかわからずにポカンとしていた。そんな俺の腕を成実が掴んで子供のように無邪気に笑う。
がいるなら百人力だなー。今回は楽できそうじゃん。」
 だから一体何の話だよ、そう問いかけようとする俺なんてちっとも気にせず成実は俺を引きずるようにして歩き出した。政宗といい成実といい、どうしてこうやって人を引きずるのが好きなんだ。
 俺は何とか引きずられる体勢から自発的に歩くようにすると、前を先導するようにして歩く成実に声をかける。
「おい、何処に行くんだよ。」
「あれ?知らないの?長曾我部軍を迎えに行くんだよ。」
「陣羽織で、か?」
 成実が羽織っているのは、戦の時に着る陣羽織だ。山吹に染め上げられたそれは眩しいくらいだが、青がメインになっている伊達軍のカラーリングからすると中々良い配色だと思う。そんな一張羅を着て出向くんだから、これで帯刀していたら戦に行くのかと勘違いしてしまうだろう。
 成実は俺の問いに一瞬きょとんとした顔をしてから、そうか知らないんだー、なんて気の抜けた声を出した。
「長曾我部軍は血気盛んだからね、普通の歓迎じゃもの足りないらしいんだよ。だから、いつも模擬戦闘をするって訳。」
 それを聞いて漸く、どうして政宗があんなに楽しそうにしていたのかの納得がついた。模擬戦だなんて、そりゃあの政宗が居ても立ってもいられなくなる訳だ。
 随分と長い間雪のお陰で外出も碌に出来なかったという事もあって、俺もその話を聞いているだけでワクワクしてきた。政宗と毎日かくれんぼをしてても運動したって気にはなれないし、思う存分体を動かせた訳じゃない。でも模擬戦になれば思う存分暴れられる。それはとても魅力的だった。
「何やるんだ?模擬戦は。」
 俺の問いに成実は満面の笑みを浮かべて振り返る。どうやら成実も久しぶりのことにテンションが上がっているようだった。
「雪で葬竜陣が使えないからさ、今回はなんと!」
 そこで一度区切ると、成実はにやりと笑う。さっさと教えろと視線で促せば、もったいぶったような小さな咳払いを一回。そして成実が口を開く。
「雪合戦だって!」
 …まさかの展開。まさか、大の大人が雪合戦だなんて誰が思う?この、戦国時代に、あえての雪合戦?呆気にとられて足が止まってしまった俺をものともせず、成実は歩き続ける。
 テンションがちょっとどころか、かなり落ちてしまった俺を連れて、成実はその雪合戦会場へと向かった。