「知らなかったのか?」
「あー、あのさ、質問。」
鬼の眷族ってどういう意味だよ、という俺の質問に政宗は信じられないという顔をして振り返った。俺の質問はそんなに変な事だったんだろうかと思うが、こっちからしてみれば、鬼の眷族だなんてどこのアニメだよって突っ込みが入ったっておかしくないのだ。
「Ah…鬼って言葉は理解してるか?」
どうやら俺の住んでいた世界とこっちの世界では食い違いがあるらしい。そりゃ、普通の人間が炎や氷や雷を出すような場所じゃなかったから当然と言えば当然なんだけど。まさかそれがこんな時に出てくるとは思わなかった。
俺は政宗の言葉に考え込む。鬼って言っても出てくるのは精々節分とか昔話に出てくる鬼くらいしか無いんだけど、それで合っているのかどうか。不安に思うがそもそも全く違う世界の話しなのだから、同じである事を求める時点で何らかの食い違いがあるのは当然だろう。今は俺の価値観が合っているか否かの答え合わせをするべき時じゃ無い。俺がこの世界の価値観を知るべき時だ。
俺は心の中でそう言い切ると言葉を待つ政宗をチラと見てから、記憶を辿るように中空を見据えた。
「俺の世界では、鬼ってのは悪いものの象徴だな。人の力を超えた化け物って感じで伝承されてる架空の存在だ。」
架空、俺の言ったその単語に政宗の眉がピンと跳ね上がる。どうやら元の世界とこの世界との違いはそこにあるらしい。
「お前の言っている鬼と、俺達の言ってる鬼は殆ど同じだ。人の力を超えた化け物で悪事を働くのも多く、悪鬼…悪いものとして捉える者も確かにいる。だがな、いるんだよ。…鬼は、存在する。」
予想の通りに紡がれた言葉。予想通りとは言えど、俺の価値観からすればそれは異常なものだ。何せ小さい頃から鬼って言うのは空想上の生き物として刷り込まれている。素直には頷けなかった。
そんな俺の気持ちを察したのだろうか、政宗は手にしていた筆を一度置いてから俺に向き直った。今度はきちんと俺の方へと全身を向けている。
「鬼は神が天から堕ちた物だと言われてる。まぁ実態はわからないが、確かに一般人と比べたら遙かに高い能力を持っている。But,鬼の力を怖れた人間が追いやったせいで大分数が減っちまってな。現存する鬼の眷属は西の長曾我部や南の島津くらいになってる状態だ。」
神だ鬼だ普通じゃ信じられないような単語が出てくるけれど、これもひとえにゲームだからなんだろうか。でもまぁ、神様云々は昔話しによくある特殊な力を持つものへの恐れとかから出てきた過剰表現だと思えば、何となく納得はいく。
「つまり…鬼っていう特別な種族がいて、長曾我部もそれに当て嵌まるんだな?」
「That’s right!」(That’s right=その通り)
ここまできたら、もう何でもありな気さえしてくる。信長の第六天魔王ってのが比喩表現じゃ無いって言われても今ならきっと驚かないぞ。
ゲームを知っているという土台が有ったからこそすんなり受け入れていた特殊能力…加護って言うんだっけ、それだってそもそも普通の人間じゃ出来ない不自然な事なんだし、鬼がどうこうって事で一々驚くのもおかしいのかもしれない。
「でも、流石に角とかは無いんだろ?」
鬼と言ってまず思い浮かぶのは頭に生えた角だけど、ゲームで見る限り、元親の頭にそんなものは無かったはずだ。実はあの逆立ててある髪の中に隠してありましたってオチだったらもう、笑うしかないな。
元親のビジュアルに角がニョキッと生えたのを想像して俺は苦笑する。予想以上に違和感のあるその姿は、出来る事ならばお目にかかりたくない。見た途端にどんなコスプレだよって全身全霊を込めて突っ込みを入れてしまう気がする。
「角は初代の鬼にしか無かったって聞くぜ。今じゃ人の血が大分混じってるから、突然変異で先祖返りしない限りは見られないだろうな。」
政宗の説明にホッと胸を撫で下ろす俺。
疑問が解決したところで、俺は視線を文机にやった。俺に説明する為に仕事を途中で止めさせてしまったのが忍びない。折角政宗が仕事に取り掛かろうとしていたのに…。
もしかしたら気が散ったとか難癖つけて、仕事を放棄するかもしれない。そうしたら全力で止めにかからないと小十郎に怒られる。そう思って気を引き締めているとそんな俺を知ってか知らずか、政宗はどこか感心したように俺を見る。
「今まで知識の相違ってのがあまり無かったからな、少し驚いたぜ。ま、そもそも生まれが違えば違いが出るのが当たり前なんだけどな。」
直接言葉にはしなかったが、それはきっと俺が他の世界から来ている事をさしているんだろう。
文字に関して困った事もあったけれど、それはゲームの元になった時代の文字そのままの達筆な文章なのが悪いだけであって、俺に多少なりともそういう心得があったなら読めただろう。だから、次元と言うレベルでの違いがあるにもかかわらず、物に対する知識の違いという物を痛感したのはこれが初めてのような気がする。
「鬼の眷属に会えるなんざ、滅多に無い事だ。楽しみに待ってろよ。」
そう言うと政宗はニッと満面の笑みを浮かべてから書類へと向き直った。元親が来るのを知ったからだろうか、その筆の進みはいつもより速い。
意気投合したという説明を随分前に聞いたけど、この様子を見るにかなり仲が良いらしい。政宗のあんな楽しそうな顔は久しぶりに見た。
「きっとお前も気に入るぜ、あの鬼は豪快で気前が良い。」
アイツが来るならとっとと執務を終わらせて出迎えの準備をしねぇとな、そう楽しそうに呟いてから政宗は文机へと向かった。ウキウキとしたその姿には、奥州筆頭という貫禄は感じられず、ただ純粋に友人が来るのを待ちわびている一人の青年のようだ。
幸村を良きライバルとして認めているなら、元親は良き悪友と言ったところなんだろうか。ゲームでの二人の会話を思い出すに、そんなイメージがある。

