一体どうしてそんな事を決めたのか。問い掛けるように政宗に視線をやれば、器用に片眉を吊り上げてから政宗はハァと大仰なため息を吐いて見せた。
「覚えてねぇのか?アンタが寝る前に言った言葉があっただろうが。」
寝る前…?そういえば何かを言っていた気がする。必死に記憶を手繰り寄せていくと漸く思い当たる節がでてきた。
俺が長曾我部について色々聞いてるせいで政宗が寂しがってると思った時に口走った言葉。でもそれは途中で丁度ブツリと途切れてしまっている。
できたら、なんて。俺は一体政宗に何を願おうとしたのか。
「多分、眠る寸前だったから…記憶が無い。」
俺の言葉に政宗は再びため息。今度は本当に心からのため息らしく、呆れたような素振りは少ないもののそのため息の深さは先程よりももっと重いものになっている。
「Hum、まさか本当に覚えてないとはな。」
「仕方ないだろ!眠かったんだから!」
睡魔が絡むと俺はどうにもこうにも抗えない。ココにきてすぐの時も結局、話しの途中、しかも終わったとはいえ合戦場のど真ん中で眠ったりと最早伝説になってもおかしくないんじゃないかと言うくらい、俺は睡魔に弱い。自覚はある。
開き直った俺に政宗はやれやれと小さく肩を竦めてから口を開いた。
「褒めてほしい、だとよ。」
そんな事を口にしていたのかと俺が驚くとほぼ同時くらい。政宗は寒そうに体を震わせてから再び寝転んでいる俺の布団へと潜りこんで来た。冷気と共に朝のシンとした空気に冷やされた政宗の体が滑り込み、俺は小さく悲鳴を上げる。
「ぅわ、冷たッ!」
「Ah…暖けぇ。おいコラ、逃げんな。」
俺を湯たんぽ代わりにするかのように政宗が腕を伸ばして抱き寄せてくる。冷たい指先に身を竦ませて逃げようとするが、冬用の布団の中、思い通りに逃げる事なんてできなくて俺はすぐに捕まってしまった。
背中から抱きしめられるようにピッタリと体が密着する。さっきまで自分が抱きついていたくせにこういう事を言うのも何だが、言わせて貰おう。なんなんだこの状態は!問題があるだろう、問題が。
とはいえ、大の大人に抱きしめられているという状況的な問題よりも、最初に感じた冷たさがすぐに人間二人分の温かさで温んで、触れ合う部分がポカポカとしてきた時点ですぐに薄れてしまう。
「まさかガキでもあるまいし、褒めてほしいなんて言うとは思わなかったから驚いたけどな。まぁ、褒めてほしいなら精々仕事に精を出すこった。」
「…馬鹿にするか?」
子供みたいだという表現に俺はそう返すが、でも確かに褒めて欲しいという考えがあったのもまた事実だ。
「する訳ねぇだろ。褒められたい、認められたいって感覚は誰しも持ってるもんだしな。」
フォローするような政宗の言葉。気を遣わせたような感じがして気が滅入るが、それもこれも、全ては俺の所属していた組織の奴がいけない。
「仕方ないんだよ。」
「何が。」
俺の言葉に政宗が問い掛ける。どういう表情をしているのか想像もつかないが、純粋に疑問なんだろう。
「俺の所属してた組織、甘やかすのが上手かったから。」
本当に、甘やかすのだけはとても上手かった。その代わり暗殺の報酬なんて雀の涙みたいなもんで、普通の高校生のバイトよりちょっと高いかなってレベルで、人間の命のやりとりをしている金額とは到底思えないものだった。
それでも良いと思えるくらい、組織は俺達暗殺者に優しかった。勿論、優しくしてもらうにはそれなりの実績と経験という裏付けがあってこそだったけれど。
あいつらは良くわかってるんだ。暗殺者として生きている人間が、一体何を求めているのかって事を。
「なるほど、それでこんな横暴な奴に育ったのか。」
感心したようにそう紡ぐ政宗にイラッと来て、思い切り頭を後ろにのけぞらせればゴンという鈍い音。直接見れないのが残念だが、俺の後頭部が政宗の顔にぶつかったのは間違いないだろう。
「お前に言われたくねぇよ、この俺様が!」
少なくとも俺は政宗みたいに人を無理矢理引ん剥いたりするような事はしないぞ!
俺の頭突きが相当効いたのか、暴言について政宗が口を開く事は無い。多分痛みに悶えてるんじゃないだろうか。俺を抱きしめている腕が痛そうにプルプルと震えているのが伝わってくる。
そんな事を考えていると、政宗の手が突然ワサワサと明確な意図を持って動き出した。
「っ、ちょ!?」
「突然頭突きするような野郎が横暴じゃ無いっていうのか?Ah!?」
地の底から響くようなドスの効いた声。ヤバイと思って咄嗟に逃げようとするが時既に遅し。
後ろから抱え込まれた状態にプラスして足が絡められる。それこそがっしりと俺の抵抗を封じるように膝のやや上辺りを足で押さえ込み、そして俺を抱きしめたまま手を先程よりも強く動かし出した。
横腹あたりから脇にかけて、政宗の指が動き出す。
「ちょ、タイムタイムタイム!!」
「まずは上の奴に対して敬意を払うって事をみっちり体に叩き込んでやるぜ!」
Ya-Ha!楽しそうに笑いながら政宗の指が俺を擽り出した。ゾワゾワする感覚と的確な政宗の指使いに俺はすぐさま白旗を上げる羽目になるが、勿論、俺の降伏を政宗が認めてくれる訳も無く。
腹の底からの大きな笑い声に、何事かあったのかとやや二日酔い気味の小十郎が駆け込んでくれるまで、俺はずっと政宗に擽られ続けて腹筋が攣るんじゃないかってくらいに攻められ続けた。
とはいえ、子供染みた俺の言葉を真剣に受け止めて仕事を与えてくれた事には凄く感謝してるつもりだ。…言う気は無いけどな。

