酒に飲まれた訳ではない。俺の名誉の為に断言しておく。ならどうしてあそこで意識が途切れたんだという疑問が発生するけれど、これはある一つの現象によって起こったものなんじゃないだろうか。酒が入って体が温まって、意識も若干フワフワしている、そんな時に丁度良い人肌の温かさがプラスされたとしたら寝るしかないだろう。
 結論、つまり俺はあの後眠ってしまったのだ。それを裏付けるように俺は今布団に寝転がっている。多分心優しい誰かが俺を運んでくれたんだろう。
 ちょっと無理があるけれどそれで問題が解決したとして、俺の目の前にはもう一つ重大な問題が発生している。どういう事なんだ、これは。
「Good morning,sleeping beauty?」(=おはよう、眠り姫)
 布団で寝ている目の前には、同じく寝転がっている政宗の姿。そして眠たそうに少し目を細めながら布団に肘をついて軽く頭を起き上がらせている。
「何がグッドだ、起きてすぐ目の前に政宗の顔ってどんなシチュエーション…ってかどうしてお前がここにいるんだ、そして何だよ眠り姫って!」
 寝起き早々この一文を一息で良い終えた俺は凄いと思う。でもこんなくだらない事に特化した体力を使うのは勿体無い気もするけどな。
 矢継ぎ早な俺の質問に政宗はぐったりというような感じで俺を見て、眠そうに欠伸を一つ吐いてみせた。
「眠り姫は比喩表現だ。で、どうして俺がここにいるかってのはな。」
 政宗は軽く俺との距離を離すと、視線で自分の腹辺りを見るように促した。一体何があるんだと思って俺は吊られる様に顔を下へと向ける。
 見えたのは、布団の中、俺の腕が政宗の胴体をがっちりと抱きしめているという状態だった。ああなるほど、道理で温かい訳だよ。
「こういう事だ。Understand?」(understand=理解する)
「俺…抱き付いたままだったのか?」
 信じたくない、そう思いながら問い掛ける。しかしそれを容易く覆すように政宗は頷いて見せてからこれ見よがしにため息を吐く。
「お前がどうやっても離れないから、抱き付いたままのお前を引きずりながら廊下を歩いたんだぞ、俺は。」
 政宗曰く、漸く自分の部屋に辿り着いて布団に入っても俺が抱きついているせいで寝返りも打てない上に、俺が寝相を変える度にその振動が伝わって目が覚めてしまい、殆ど眠る事ができなかったらしい。
 どうやらGood morningっていう呼びかけも眠り姫って比喩も、そんな事情をまったく知らずに眠っていた俺に対する嫌味だったようだ。
「あー…それは本当に悪かった。」
 恐る恐る腕を放せば、政宗は暫くぶりの自由にごろんと仰向けになって大きく伸びをする。その姿が何だか猫っぽく見えたのは多分気のせいだろう。
 政宗は布団から起き上がるとゴキゴキと肩を動かしたりして不自由だった体をほぐしながら、まだ布団に寝転がったままの俺を見てくる。
「まさか絡み酒だとは思わなかったぜ。平気そうな面してたし、顔色も大して変わってないし…何より、あんだけ飲んで二日酔いにもなってないみたいだしな。」
「俺もまさか抱きつき癖があるとは思わなかったよ。今度からは気をつけるけどさ。」
 もしかして友人が言っていた、人が変わるっていうのはこういう事だったのか?
 常日頃から硬派とか、そういうイメージとは全くかけ離れたポジションにいるものの、流石に十八にもなった男が子供よろしく抱きついてくるなんて、普通なら想像はつかないだろう。
 まぁ政宗に迷惑かけたりしちゃったけど、これも良い勉強だよな。今度からは絶対に飲みすぎたりなんかしないようにしよう。そう心に誓っていると、政宗がそういえば、と言いながら俺の隣に寝転がった。
「戦だけがお前の仕事じゃねぇからな。とはいえ、政治云々がわからない奴に執務は任せられねぇし、まずはここの生活を覚えて貰う為に雑用…俺の世話係をやってもらう。」
 突然の提案にどういう事だと思いながらも俺は頷いた。来て早々まずは他の世界から来たなんていう非現実めいた現状の説明、プラスそのまんまじゃ余りに不審すぎる為と偽りの設定を決め、それからすぐに北に遠征に行ったりとか。だから俺がここで暗殺者として以外の仕事を貰うなんて初めての事だ。…小十郎の野菜を洗ったりとかは手伝いだからノーカウントにする。