わんこそばを髣髴とさせるそれは、止めようと思えば止められるんだろう。これがもし政宗相手だったらいい加減にしてくれと言い放っているに違いない。しかし相手は伊達軍の面々で、新参者である俺に好意で酒を注いでくれるのだ。それを無下に断る訳にもいかない。
一杯飲んでもまた次、次、次。いつしか意識が遠のいてしまうのは仕方が無い事だったんじゃないかって、俺はそう思った。
とはいえ、ぼんやりとした記憶は残っている。何人並んでるんだかわからないような長蛇の列、一人ひとりから一杯ずつの酒をもらっていって、十杯過ぎ辺りで視界が若干白ばみ、二十杯目位で無意味に笑いが止まらなくなった。大体五十杯になるともう本来の意味とかも忘れてひたすらに注がれた酒を飲み続け、そこからはもう数を数える事も止めた。
延々注がれる酒に、これは間違いなく意識が飛んでしまうかと思っていたのだけれど、不思議な事に今もこうやって不安定ながらも意識は保ち続けていた。
「おっし、これラスト?」
不安定な意識なのに、テンションだけは異様に高い。言っておくが今声を出したのはいつもテンションが高い成実じゃなくて、俺だ。
ついでに言うとニヤニヤして笑ってた政宗は俺が五十杯を過ぎる辺りでその笑いを潜め、今じゃ信じられないと言うような顔をしてこっちを見ている。よくよく見れば鬼庭さんも成実も、あの小十郎ですらこっちを見ていた。
「はい、ご馳走様!」
そんな皆に見せ付けるかのように立ち上がってから杯を一気にグーッと煽れば、周囲からは俺に酒を酌んだりしている間も互いに酒を飲み合い続けた結果、死人のように畳へと転がっていた伊達軍兵士達からパチパチとまばらな拍手が沸き起こる。
酔っ払った感覚はあるし、今まで経験した中で一番酔っ払っている自信はあるけれど、ここで酔い潰れない辺りはやっぱり異様なほど高い体力値が関係しているんだろうか。アルコールの分解酵素まで強くなってるとか、何だか出来すぎている気もするが、ここは感謝しておこう。
俺は空になった杯を逆さにすると政宗に向かってどうだというように胸を張った。
「Oh,unbelievable…」(unbelievable=信じられない)
「いやー、久しぶりに凄いの見たね。あんだけ飲んでちょっと顔赤いだけとか、俺達並みじゃん。」
「小生の杯を受けた人ですからね。飲めて当然です。」
「鬼の坊やも途中でブッ潰れたというのに…底知れねぇな。」
それぞれがそれぞれ、俺の雄姿にため息混じりに言葉を紡ぐ。その中で気になる言葉が出てきて、俺は四人に向かって膝立ちになってにじり寄った。その途中で間違って床に転がってる伊達軍の誰かを蹴飛ばしてしまったけれど、まぁ酒の席だし許してくれるだろうと思って素通りする。
「鬼のぼうやって、もしかして長曾我部の事か?」
バランスを崩して小十郎に近付くちょっと手前で転びかけ、間違って小十郎へと倒れ掛かってしまう。それを難なく支えると小十郎はだからどうしたといわんばかりの表情でこちらを見る。こっちは唯単に興味で聞いたから深い意味は無いんだけど、そうは取れなかった人物が一人いたみたいだった。
「お前…随分長曾我部に執心だな。」
首根っこを捕まえてズリズリと引きずり、自分の目の前に放り投げてから政宗が低く唸るように声を出す。でも酒が入っているせいもあってかその低い声も心地よく聞こえてしまう。
俺は政宗の言葉が最後まで紡がれる前にプフッと小さく噴き出して笑うと、再び膝立ちになってから今度は政宗へと近付いた。
「なんだ、政宗ってば寂しいのか?」
「ッHa!?テメェ何訳のわかんねぇ事を…」
「オッケーオッケー、そうかそうか。」
俺の言葉に声を荒げる政宗。普通だったら突拍子も無い俺の言葉に気が動転してそうなったんだと理解できたんだろうけど、この時の俺の思考回路は大分混線していたらしい。
それを図星をさされた照れ隠しだと勘違いして、俺は政宗に抱きついた。そりゃもう、正面からガバッと。もし正常な判断ができる俺がその場所にいたら、間違いなくそんな俺の頭をカチ割る勢いで殴っていたに違いない。
「ここまで俺に色々してくれたのに、何にもしないまま居なくなるだとかそんな事はしねぇよ。あ、でも、できたらさ、」
俺の顔が緩む。自分の意思ではどうにもならないくらい、ふにゃっと頬の筋肉が緩んだ。そして腕は政宗の胴へと回したまま、上半身だけを離して政宗を見やる。
ちょうど視界の中に他の三人も入ったのだけれど、俺の突拍子も無い言動に些か困惑している様子で、三人が三人顔を見合わせあっていた。
「できたら、」
そこから先はブラックアウト。

