俺は高校生でありながらも飲酒経験は若干ある。酒とか煙草とか、そういうのに憧れるのは高校生ゆえの青さって奴だろう。俺もそういう奴らの中の一人だったし、俺とつるんでた高校の仲間も同じだった。つまり早い話、良く皆で酒盛りをしていたのだ。
 如何せん自分が酔っ払ってしまっている最中の記憶なんてのは、次の日酒が抜ける頃になるとなくなっているから良く覚えていない。だから俺が知っているデータは、その時俺と一緒に酒を飲んでいた奴の証言のみだ。
 酒が入ると、人が変わる。
 詳しくは語られなかった為に俺が知ってるのはそれだけだが、もしこれが絡み酒とかだったら大変な事になる。普通よりも体力があるであろう俺がもしも大暴れなんてしたもんなら、地獄絵図なんて通り越した凄惨な悲劇が待ち受けているに違いない。
「ヤバイ…な。」
 とりあえず加水分解してしまおうと水を飲もうと思ったが、周りにある飲み物と言ったら、酒、酒、酒。それ以外に飲み物なんて見当たらない。一体どれだけこいつらは酒を飲むんだと呆れながら、水を探すべく視線を上げる。と、その時初めて俺は自分の置かれている状態に気付いた。
 俺の周りをぐるりと取り囲むように伊達軍の面々が集まっていたのだ。悪意は無いし、皆酒が入っているせいか何処と無く笑みを浮かべていると言うのに、やっぱり暴走族っぽさが抜けないのは伊達軍クオリティだろう。
「あっ、あの、様、俺達と一緒に飲みませんか!?」
 俺を取り囲む中の一人がそう叫ぶ。と同時に、一気にその他の奴等が騒ぎ立てた。
「お前、抜け駆けすんじゃねぇよ!」
「うっせぇ!俺が先に声かけたんだぞ!」
「一揆鎮圧の時の武勇伝、聞かせて欲しいッス!」
様ほどの武将と、一度酒を酌み交わしたいと思ってたんでさぁ!」
「お前ズリィぞ!」
「いやいや、飲むならこっちの辛口が旨いっすよ!」
 流石の俺もここまで聞き取る事はできたが、それ以降は全然だ。全員が全員まるで別の事を言っていて、それは言葉という次元を軽く超越して騒音と化している。やいのやいのと言いながら俺が俺がと迫り来る伊達軍の兵士達。こんなにも簡単に俺という存在を認めてくれたなんてちょっと信じられないが、やっぱりこれは人徳って奴だろう。
 誰とでも仲良くなれるっていう自分の長所は、こんな時にも実力を発揮したようだ。
 とはいえこれは余りに凄すぎるだろう。実際に見た事は無いが、まるで街角で偶然見つけた芸能人に集まる人達みたいだ。その熱意が半端無くて正直暑苦しいが、それらが全て好意の表れなのだと思えばさほど悪く思えなくなるのが不思議に思える。
「あー、えっとさ。」
 俺が口を開いた瞬間、今まで言い争いをしていた奴等が全員ピタリと口論を止めた。徳利や杯を差し出していた奴らもほぼ同時に動きを止めてこっちを見ている。
「そんなに一気に話されてもわかんないって。…折角時間が有るんだから、俺もちゃんと挨拶とか話とかしたいし、順番に話そうぜ。」
 まさか沢山いる全員と一人一人話していくには難しいかもしれないが、せめてこの収拾がつかない状態を何とかすべくそう言えば、皆がパァッと顔を輝かせた。
 そして何がきっかけになったのかは良くわからないが、俺の目の前に一人のリーゼントがちょこんと座る。見かけからするとちょこんって擬音語がこんなにも似合わない奴らは早々いないんだろうが、動きは本当にそういうイメージを彷彿とさせるのだから面白い。いつきのところでも畦とか畑とかを意気揚々と直しているあたり、性根は真っ直ぐなんだろう。
 そう思っている間にも、リーゼントの後ろに角刈り、モヒカンっぽい髪型、スキンヘッド、眉無し…というように次々と人が並んでいく。どうやら本当に一人ずつ話をしようとしているらしいが、そんなに几帳面に並ばなくても良いのにな。
 どんどん伸びていく列の多さに、この調子じゃ徹夜でも無理なんじゃないかと思っていると、上座に座っていた政宗が視界に入った。その隣には小十郎と成実と鬼庭さんがいて、成実と鬼庭さんがさっきの続きみたいにとめどなく酒を酌み交わし続けている中、政宗がこっちを見てニヤニヤと笑っている。小十郎はこっちなんか見向きもしないで政宗の杯が空になったら酒を注ぐという行為を延々と繰り返しているようだった。
「ま、持て成されるのが主賓の仕事だからな。潰されんじゃねぇぞ?」
 潰される?どういう意味だと思っていると、俺の目の前、一番最初に並んだリーゼントの男が俺に向かって徳利を差し出してきた。
「どうぞ、様!」
「あ、え?あぁ、ありがと。」
 その勢いに押されて渋々杯を取って酒を受けてしまうが、もしかしてこれも飲めって言うのか?さっき鬼庭さんの一杯プラス成実にシェイクされたおかげでクラクラ来てるこの俺に?
 救いを求めるように周囲を見回していると再びニヤニヤ笑いをした政宗と目があった。俺が酔っ払っているのに気付いていないと思っていたが、どうやらあの表情を見る限り、それに気付いて尚且つ知らん振りを決め込んでいるらしい。
 …こうなったらどうなってもしらないからな。
 俺は内心で政宗に向かって吐き捨てると、酒を飲まないまま静止していた俺を見て不安そうにしているリーゼントに向かって小さく笑みを浮かべた。
「じゃ、遠慮なく。」
 グイッと飲み干せば、リーゼントが何かを言おうと口を開いた瞬間に次の奴がそいつを押しのけた。そして次に並んでいた角刈りが俺の前に座り、またさっきのリーゼントと同じように俺に徳利を差し出してくる。