11.
 宴に来る前に服を着替えろと政宗から寄越されたそれに、俺は目を丸くしていた。
「な、んでコレ…」
 そもそもこの世界はあくまでも似非戦
国時代で、現にキャラクター達が色んな服を着ていたからそういう服があるんだって言うのも良く理解している。でも、それにしてもこれは。
「ブレザー?ってか、コート?」
 政宗達が着ている陣羽織みたいな奴は詰襟で、いうなれば学ランの裾を伸ばした様なデザインだったはずだけれど、俺の目の前にあるのはジャケットの裾を伸ばしたようなものだった。布は着物地だけど違和感も無く、灰色に銀色と黒の糸で水の流れのような刺繍が入ったそれは、シンプルながらも存在感のあるデザインだ。裏地の変わりに薄めのツルッとした生地がついていて、そっちは白地に控えめな灰色の染め抜きがされている。そちらもやはり水の流れをイメージさせるような図柄だった。
 どうしたんだと言うように政宗に視線をやれば、得意満面な表情と目がかち合った。
「お前の着ていた服を模して作った、Special orderだ。」(Special order=特注)
 どうだ、というように胸を張る政宗。俺は素直に大きく頷いてみせた。
「スゲェよ、これってわざわざ俺用に作ってくれたんだろ?…うわ、ちょっと今好感度アップした。」
 人の服脱がせたり上半身だけとはいえ裸にされたり色々あったけど、政宗って実は良い奴なのか?そう思って早速着替えようと服を広げると、その上着の中からトサリと音を立てて白いものが落ちる。それを見て俺は更に目を丸くした。
 それは毎日のように見ていたワイシャツだったのだ。勿論これも着物地で、ボタンが木を削って加工して作られている。きっと初めて作るからそっくりそのまま作ったんだろう、タグまで丁寧に再現されていて俺は小さく笑みを零した。
「俺達の服だと動き辛そうだったからな。お前にはお前の服が一番合うと思ったんだ。」
 そんな俺に掛けられる政宗の声。俺はさっそく服を着ようと、今着ている服の合わせに手を掛けて…手を止めた。
「…なんでそんなにマジマジと見てんだよ。」
「減らねぇから良いだろうが。ケチケチすんなよ。」
 さぁ脱げと言わんばかりに俺の部屋の座布団へと腰を下ろす政宗。梃子でも動かないと言うようにどっしりと其処に構えると、ニヤついた笑いを浮かべて動きを止めている俺を見つめている。
 ちょっと見直してたけど、やっぱり政宗は政宗だなと思う。しかし、上半身はもう嫌と言う程見られたし、政宗自身も興味はあまり無いらしく、唯単に俺をからかっているようなそんな雰囲気を醸し出している。
 多分大丈夫だろう、そう考えて俺は止めていた手を動かした。幸いな事に渡された服はワイシャツと上着だけだったから袴を脱ぐ必要性は無い。上着を乱雑に脱ぎ捨てると俺はワイシャツへと手を伸ばした。
「あー、懐かしい。」
 そんなに長い時間が経った訳でもないのに、袖を通すとかボタンを掛けるとかそんな動きが全て懐かしく思えてしまう辺り、俺は大分こっちの世界に慣れてきたらしい。
 その次に上着…そう思って手を伸ばし、俺は動きを止めた。
「随分豪華じゃないか?これ。」
 ワイシャツはサラサラした感じの木綿地だったが、上着はその艶加減からして絹とかそういうのを使ってるんじゃないだろうか。まして銀の糸とか…現代でこそ普通にあるかもしれないが、この時代にそんなものが簡単に作れる訳が無い。
 ワイシャツはともかく、コレは袖を通すのに勇気がいる代物だ。
「これだけの服を用意するほどの人材って皆に知らしめんだよ。…現にお前は、それだけの価値がある。」
 政宗の目がスゥっと細められ、国主としての貫禄に満ちた表情へと変化する。そしてそのままの顔で俺を見つめてから満足そうに一度、頷いてみせた。
 この豪華な洋服を用意するだけの価値がある人材を手にする事ができた満足感だろうか。でも俺からして見ればそれは少しずれているのだ。
「早く着て見せろよ。」
 促す政宗の声に俺は思考を打ち切って漸く上着へと袖を通す。
 ズシリとしたその重さ。踝より十センチくらい上の位置に裾が来るような、丈の長いものだから当然と言えば当然なんだけれど、そのコート独特の重さに加えて俺にのしかかってくるのは、布の重さだけじゃ無い。
 その重さに俺は狼狽した。政宗がわざわざ俺の為に用意してくれた事や、俺の使いやすいようにと現代のデザインを取り入れてくれた事、嬉しいと言う気持ちが沢山湧いてくるというのに、それと比例するように俺の心の中に黒くて重いものがゆっくりと沈んでいく、そんな感覚。
 そんな俺とは裏腹に、俺が上着を着るのを見ていた政宗はあどけなさを含んだ顔ではしゃぎ出す。
「Great!最高にcoolじゃねぇか!」
 悪戯が成功した子供みたいに活き活きとした笑顔。俺も同じように笑おうと思ったのに、それを許さないものがある。それは俺の中に沈んでく、黒くて重いものだ。
 それはこの上着に感じた重みにもにて、俺にずっしりとのしかかってくる。政宗が喜べば喜ぶだけ、その重さは徐々に増えていくような、そんな気さえした。
 その正体は、きっと負い目だろう。