偵察、暗殺、何でもござれ。
あぁ、でも、本気は出したくないんだよね。
豊臣が四国を狙っているというもんだから、豊臣の調査ついでにその狙われている四国へと足を伸ばした。
慣れたもんで、あの高さを飛んでる凧から一直線に砂浜へと着地するけど砂煙一つ立たない。やっぱり俺様だね、カッコイイ!なんて自画自賛をしながら周囲を観察。
人気のない場所を選んだもんだから、周りには人っ子一人いやしない。まぁそうじゃ無いと困るしね。
「さーて、何処から行きましょうかねぇ。」
印を結んで姿を変える。どこにでもいるような初老の薬売りのふりをして町へと紛れこんだ。
城下は適度に賑わっているがそれと同じくらいに賑わっているのは港の方だ。沢山の倉庫や船を入れる建物が並んでいる。ここは海の幸が有名だからねぇ、港が盛んなんだね。と考えながら町並みの中で甘味屋の場所を調べておく。団子とか甘味系は真田の旦那が喜ぶ。干物でも大将に買って行こうか。最近は軍神が酒を持ってこちらの軍へと良く来るし。
敵同士って感じが全く感じられないあの二人の関係は、お互いにお互いを信頼しているんだって、第三者の俺様だって良くわかっちゃうくらいだ。
人間らしいよね。凄く。
人ではなく草として、踏み潰されるものとして、消費されるものとして生きている忍びには無い感覚。羨ましいなんて、思わないけれど。
口元に浮かぶ笑顔が変わる事は無い。これでも忍びだし、自分の思ってる事を顔に出しはしない。きっと今の俺様の気持ちが表情に出ていたら、変な顔だったんだろう。
「カッコ悪…」
小さく小さく、誰にも聞こえないように呟くと、それは海風に消えていった。
城下町と港を見て思った事は、所々に柵が設けられてるって事。一気に攻め込まれない為の工夫はしているらしい。まぁこっちにも忍びがいるだろうから、豊臣が狙ってるって事だって十二分にわかってるでしょ。それにしちゃぁ随分と手薄な警備だけどね。
この戦い、豊臣の勝ちかな。でもこれ以上豊臣に力をつけさせたくないのが本心だ。できる事ならここらへんで勢力を削いでおかないと。
破竹の勢いで全国制覇ー!なんて、冗談じゃ済まされない事になったら、困るのは俺様はじめ、大将に真田の旦那、軍神、竜の旦那…数え切れない程だ。
上杉軍と一度手を結んででも、豊臣軍を叩いた方がいいかもしれない。この四国が戦火に巻き込まれている、その隙に。そうすれば自分の国を犠牲にせずに攻撃を仕掛けられるし、四国に戦力を向けているその時に北の方…つまり背後から叩けば、流石の豊臣軍もなす術もないだろう。
町はずれの丘に登り、林の中にある細い小道に入って今回見たものを頭の中で整理していると、背後に人の気配が二つ。
「何かご用ですか?」
気安く声をかけて振り返れば、そこには五つにも満たないような子供と、それをつれた白銀の髪の男。右目のみの隻眼ながらその眼光は鋭く、一見して只者じゃ無いっていうのは良くわかった。
これは竜の旦那と近い人間だね。守るべきものを良く理解して、それ故に強くなった人間の目だ。大将や軍神と違うのは、若さ故の勢いのある面構えだろうか。
「熊胆(クマノイ)はあるか?無いなら他の薬でもかまわねぇ。」
「はいはい、腹痛ですね。」
そんな人がこんな所で何やってるんだか。まぁ、どうでもいいけどね。それに旦那も鍛錬や訓練の合間、執務と執務の隙間を狙っては城下の甘味屋へ行っているし。
薬箱から注文どおりの熊胆を取り出すと袋に詰めて子供へと手渡した。
「一応三日分入れときましたよ。苦いですが、その分効きますからね。」
子供はうん、と大きく頷くとチラと銀髪の男を見上げた。その顔はとてもすまなそうな顔だが、そんな子供の頭を男は強くワシワシと撫でてニカっと笑ってやった。
「とっとと行ってやんな。代金は俺が払っておくからよ。」
「ありがとうございますっ!」
子供は一目散に走り抜けていく。その背を満足そうに見送ってから男は俺様へと向き直った。隻眼が強く眼を射る。
「これで足りるかい?」
渡されたのは大粒の砂金。法外な値段を渡してくるそいつに驚いていると、その男は俺の手を掴んで無理矢理それを握らせる。
「い、いや、困りますって旦那。こりゃいくらなんでも貰いすぎ…」
「まぁまぁ。」
ギリ、と手を掴む力が強まる。そこには俺に砂金を押し付ける以外の意図が見受けられてじっとその隻眼を見つめ返した。睨み返したといった方がいいのかもしれない。
「俺としてはその釣りの分であんたの時間も買いたい訳だ。痛くもねぇ腹を探られんのは嫌いでなぁ…どこの国のもんかは知らねぇが、堂々と話そうぜ。」
「ありゃー、バレてたの?俺様ってば忍び失格だねぇ。」
変装の術を解けばそいつは驚いた顔をして顔をまじまじと覗き込んでくる。
「スゲェな。忍びってのはそんな風に顔も変えられんのか。」
「忍びのやる事は何でもありでね。密偵、情報収集、暗殺だって俺様大得意!…何だったら、試すかい?」
もう片方の手を手裏剣へと動かしたその瞬間。ガツンという音と共に目の前に火花が散った。この男、咄嗟に頭突きしてきたんだけど!いや、地味に痛いし!

